永田さんは部屋に戻ると、すぐに連絡していた。

大晦日と元旦は、森ノ水アパートで過ごすって。

電話で話す声、生声を私は201号室から盗み聞きをする。

「ちょっと、今年は一緒には過ごせないもんだから、ごめんな…色々とまだ片付いてないから、大晦日と元旦で大掃除でもするわ…」

確実に聞こえたその言葉に、私は安心した。

私は嬉しくって、バタリと横に倒れて丸くうずくまる。

幸せって、つくづく思った。

自分の願い通りになって。

神様、人の言った言葉を素直に受け止めると、こんな小さな幸せが手に入るんだね?

こんな小さな幸せをくれる人が、私の大好きな永田さんだなんて。

…嬉しくて涙が出ちゃう…。

おまえは、私のモノダーーーッ!!

そう、今の時点で思ってもいいでしょ?

私は真下に居る、永田さんのわずかな動きの音に、愛しさを感じて。

また、あなたへの想いの深さを実感する。

大晦日、

「じゃあ、皆様。よいお年を」

「はぁい、お疲れ様ぁ。よいお年を」

そう言って営業所を出ると、数分遅れで永田さんが駆けて来た。

「お疲れ。今夜、いつ来る?帰って少しだけ、俺独りの時間が欲しいから。たぶん帰りも9時過ぎるから…」

時計を見て、

「11時くらいなら問題ない。その辺りでいい?」

「うんうん!うん!その辺りで行くね」

「じゃあ、また後で」

そう言って永田さんは営業所に戻った。

と、同時に私はすぐにモモちゃんにラインを送る。

『ついに今夜、アイツを堕とすよ!』

よっしゃー!

『出た!肉食女子!コースメニューはどんな仕上がりなの?』

モモちゃんの返信に、私は独りで辺り構わずニヤニヤする。

『年越しそばを食べて、近くのお寺で除夜の鐘を突きに出掛けて、寒さで凍えながら部屋へと戻り、そのまま人肌で温め合う!』

私のラインに、バッチシマークが入る。

『としこっち、今夜雪降るからね。演出もバッチシだよ☆』

マジ?

ほらほら、アイツがらしくない謝り方するから。

ウケる…ププッ(笑)

『もう、私、今夜は絶対に好きって伝えるわ』

だってね、こんなに近くに居て。

こんなに私のどうしようもない、つまらない気持ちを。

私が何も言わなくても、言葉でわざわざ表に出して、私に言ってくれるんだもの。

察知するっていうのか。

いや、人の心を見抜くっていうのか。

心の揺れ動く方向を見ているというのか。

ミクロの不純物も、見落としたりしない。

そして、そのミクロの意味を一瞬で読み取ってしまうの。

だから私。

自分を更に深く知れる。

永田さんは不思議な魅力がある。

私はその個性が、好きだったりもするの。