自分で選んだ、誇り高き仕事なんだと。

自分のためにいつかなる。

誰かがやるの誰かとして、働きがいのある仕事なんだ。

人の汚した所を、只ひたすらに黙々と掃除をしていく保守作業の仕事。

癒しのエメラルドグリーンの作業服も、ススの混じった水しぶきで汚れる。

私の横を何度もスーツで決めた男たちが、忙しく通り過ぎる。

私の前をヒールの音を響かせた女たちが、忙しく通り過ぎる。

…私も1年前の今頃は、こうやってしゃがみ込む人には一切目を向けず、仕事に夢中になっていた。

若い男の子たちが、床清掃の機械を組み立てて、

「副所長、どっちからやってきます?」

「それ、ちょっと美空さんに使い方教えたいから、悪いけど空調の方頼んでいいか?」

「了解です」

出た出た、新たなる機械。

若い男の子たちは、別の場所へと向かった。

「車も乗れない私に、こんなマシーンを操縦させちゃって大丈夫かしら」

ワガママは通用しなくても、一応遠回しで嫌がってみる。

「大丈夫。バカでもアホでも、言われた通りにやりゃあ、やれる」

「バカは言い過ぎでしょ!」

だから普通に言えってのぉ。

すぐ、捻った言い方するんだから。

「別に、あんたの事を例えて言った訳じゃないし」

「アホならまだしも、バカは傷付くぅ」

ほらほら、こうやって。

また、どうしようもなく会話が弾む。

そうすると、一気に周りが見えなくなる。

「ほら、とりあえず、ここのレバーを持って」

そして永田さんは仕事モードの真面目な顔に戻る。

元々、真面目なんだけどね。

「ここ?」

「ここ」

「これ?」

「そう、これ」

そう言いながら、永田さんってば私の真後ろにピッタリくっつくの。

ヤバイ…。

背中に心臓の振動を感じる。

「オンにして…」

「オンにして?」

「下が回転するから、ハンドルは基本、腰の位置な?」

「はい」

私の握る手元に、永田さんの手元がかぶさって。

腰の位置にハンドルを合わせると、まるで後ろから抱き締められてるみたい。

ヤバイ…。

意識が違う方に集中しちゃう。

「レバーを下げて左に曲がる。上に向けりゃ右へ曲がる」

「はい」

ドキドキ…ドキドキ…

手が温かい。

胸の中も、やっぱり温かい。

もっともっと、この温かさを私だけが感じられたいいのになぁ。

もっとって…どんな…?

私の肩から顔を覗かせて、エロい声で囁いた。

「バックは…」

「ヒャッ!」

私は思わず、こそばゆくなって耳に伝わる、永田さんの甘い囁きを肩で拭った。

「ナンなんだ、あんた。真面目に聞けよ」

あんたのその声でバックだなんて言うから、いかんいかん。

一瞬エロい事、思い出しちゃった。

私も変態だ。

いくつになっても、こんな事でドキドキするなんて。

私も大概、恋に成長なしだね。