親切で優しい、私の癒しの王子様かと思ったら、とんでもねぇ奴だな。

住んでる人間に有り得んぞ、コイツのコメントは。

「チッ…」

わざとらしく、舌打ち返しをしてやる。

「まぁ、これで一先ずはチャラでいいだろう?」

また、何を言うかと思ったら、

「銭湯ん時は、子どもに声掛けてくれて、有難うな」

「えっ?」

「あの時の貸しは、さっきのでチャラにしてくれ」

………。

それで、彼氏のフリして助けてくれたって事?

「改めまして、今日から101号室の新たな住人になりました、永田 輝(ながた あきら)と申します。宜しくお願い致します」

何よ、改まり過ぎでしょ、急に…。

そんな深くお辞儀されたら、こっちまで頭を深く下げなきゃならんじゃないの。

「あぁ、あの、こちらこそ。美空(みそら)としこって言います。分からない事が有ったら聞いて下さい」

真面目なんだか、性格悪いのか、どっちなんだろう。

でも…。

なんだろうね…。

今、しばらく…。

この永田という男と目が合ってる最中なんだけどね…。

視線をなかなか、そらせないの…。

だってね…。

瞳がキラキラしてるの…。

吸い込まれそうなくらい、引き付けられる…。

私の心の中にある、自分を必死で支える軸…。

それに螺旋を描きながら、ゆっくりゆっくり…。

この人の瞳のキラキラが巻き付いていく感じ…。

「何?」

頭を少しだけ傾げて言われて、現実に戻る。

ヤバイ…。

今の仕草もキュンときた。

「何でもない、何でもない!」

完全に持っていかれていた。

あぶねぇな~…フーッ…。

「そういえば、先に言っとくわ」

永田さんは腕を偉そうに組んで、冷たく言った。

「美空さん、あんた我が強そうだから忠告しとくね。俺、メチャクチャ神経質だからさぁ、騒がしいのダメなんだよねぇ。うるさいの、気を付けといてくれる?」

あぁっ?!

あぁっ?!あぁっ?!あぁぁぁっ?!

何、コイツ。

我が強いって、それはおまえだろ!

「あら、嫌だわ~。実は私も永田さんに負けないくらい神経質なんですよねぇ。なんせ、子どもが大嫌いなんですよぉ。だからお子さん連れてこないで下さいねぇ。うるさくて敵わないからぁ~」

コイツ、離婚か別居でもしとんのかい。

そりゃあ、そうだわな。

こんな自分で神経質だとか言う男に、誰が一緒に居られるかっての!

我が強いって…。

同じ事を悟ったとは言え。

我の強い奴に、我が強いと言われるとは。

…やっぱりコイツ、ムカつくわ。