ぽとっ。


「う…ん…?」


 努は自分の顔に『何か』が落ちたことで目を覚ました。


 隣にも屋上にもヨシの姿は見当たらず、しばらく努はボーっとしていた。


 そして顔に落ちたものをふき取ろうと寝た姿勢のままハンカチで顔を拭いた瞬間。


「…!?」


努の目は見開き、一気に目が覚めた。あぐらの姿勢へと早変わり。


 ハンカチについたもの、つまり努の顔に落ちていたのは、


「汚ね…っ!!」


鳥の糞だった。


努の顔全体にかけられていて、少々口にもかかっていたため、


努にとって生まれてから今までの中で1番嫌な起き方だ。


ぺっぺとわざとらしく唾を吐きだし、ひとまず顔を洗うために努はトイレへ行こうと思った。


「よいしょ…」


 努はその場に立って、あたりを見回す。


 学校の周辺は驚くほど静かだ。鳥の声だけが響き渡っている。


 屋上の時計を確認すると、3時間目が始まる前だった。


努は自分が寝ていた時間の長さにも驚いた。


―――――今から授業を受けるべきか?


   でも今から行って皆に変な目で見られたらどうしよう。


   それに、アイツ。正ももう戻ってきているだろう。


 気分も乗らないため、このままサボろうかとも考えた。


 しかし、いざとなると努の真面目精神に反するので、なかなか決断できなかった。


「…って、そんな暇じゃねえよな」


 今は自分の顔についた鳥の糞を洗い流すことを最優先させ、


後のことはトイレに行ってから考えることにした。


鏡もないため、きちんと拭けているかどうかさえ分からない。


もし顔に残っていたら、恥さらしだ。


それこそ正に馬鹿にされると思った努は、


皆が授業を受けているため心配ないにもかかわらず、下を向いて歩くことに決めた。


がちゃ。


 努が屋上から校内へとつながるドアを開けた時には、


もう鳥の糞はすっかりと乾いていた。