「くるみぃぃ!!バカな俺はお前のこと、好きだったんだよ、このやろぉぉぉ!!」


 努は自分も叫ぼうかどうか迷った。


―――――この悲しみを、どこにぶつけよう。この苦しみを、誰に伝えよう。


   言いたい。くるみはもういないけれど。直接は伝わらないけれど。


「俺も好きだったよぉぉ!!でもお前はヨシのことが好きなんだろ!?


 はぁ…っ、ぁあ、くそっ、このやろぉぉぉぉぉおお!!」


 ありったけの想いを空へ。くるみへ。


 ヨシはきょとんとして、すぐに笑った。


「努、お前結局叫んでんじゃねえか」


「ハァ…お、お前見てたらやりたくなったんだよ」


 努の耳には叫びがまだこだましていた。


登山者が登頂してヤッホーと叫んだ時のような感動が努には訪れていた。


「んだよ、最初から…言えってんだ、よ」


「はあ…そうだな」


 そして努のその言葉を最後に、


「「……」」


長い沈黙が訪れた。


 空は相変わらず憎たらしいほどの晴天で、絵の具の水色をそのまま画用紙に塗ったようだ。


グラウンドにわずかにあった雨の跡も、今ではすっかりと無くなっている。


7月の程よい暑さと、涼しい風、それに叫んだのと泣いた疲れが押し寄せて、


努は夢の世界へと招待されかけた。


 5分前までは必死に叫んでいたのに、今では落ち着き、うとうとしかけている努。


眠気と格闘していたが、もう素直に従ってしまおうと努は思った。


そして、その場に寝転んだ。


 おいおい、何寝てんだよなんてヨシの言葉も努の耳に入らず、寝ようとした。


―――――ああ、いい気持ちだ。


 さわさわと風が努の髪をなびかせる。


短いヨシの髪はなびかなかった。


 風が努の心を落ち着けていく。


ヨシの心も落ち着かせる。


―――――くるみが死んでしまったのは辛いけど、蘭の言うとおり、


   くるみは俺たちが泣いていることを望んでいないよな。


   くるみの死を、否定はしない。悲しいとは思うけど、受け入れる。


 努の心の中では、くるみの死は受け入れているはずだった。


それが本当に本当の努の心とは一致しているのか否かはわからない。


 しかし努自身がいい夢を見られそうだと思ったのは事実である。


 そして思ったとおり、努はいい気分で夢の世界へと旅立った。