「高杉さんと会えますか?」

「会えれば嬉しい。
 だが会えずとも高杉さんには、気持ちは伝わるでしょう。

 あの方は優しすぎる。優しい故に今もこうやってワシたちを遠ざける」

「けんどどれだけ遠ざけられても、わしらの気持ちは変わらん。
 高杉さんに助けてもろうたご恩は、簡単に返せるものじゃない」

「高杉さんの病は?」

「労咳という噂だな」

「あぁ、あの血を吐いたのは確かにそうとしか思えん」




そんな会話が耳に入ってきて、私は思わず足を止めて声をかけた。



「あの谷さん……、えっと高杉さんに用事ですか?」


私の声に、その集団の足がピタリと止まる。


「あんたは?」


そう言われた直後、「あぁ、戦神じゃ」農民たちの一人が呟く。


「戦神?
 あんた、あの時一緒に戦った舞さんかい?」


そう言って、次の人が私を見つめると、次々と納得したように頷いていく。


「私を知ってるんですか?」

「あぁ。
 高杉さんと共にわしらも戦った仲間ですから。

 して、舞さんはどうしてこんなところに?」


気遣う様にその人は私を見つめる。



「少し晋兄と言い合いしてしまって頭冷やしに歩いてたんです」

「高杉さんと喧嘩を……」


納得したように誰かが頷いた。



「あの教えてもらえませんか?
 晋兄の為に何かしたいんです。

 でも晋兄は私には何も教えてくれなくて。
 労咳って、どうやったらなおるんですか?」



そんなことを真剣に聞く私に私を知るその人たちは、
まっすぐに向き合う様に答えてくれた。



労咳の原因は暴飲暴食のせいで脾臓と胃が調子悪くなり、消化不良の結果だと言われていること。
性行為過多が原因だ精神疲労が原因だなど、誤解を招くようなことばかりが次々と出てきた。


私的にはびっくりするような言い分でも、当時の人たちにとってはそれが信じられたのだと思う。


治し方として言われているのが、浣腸と採血を繰り返して体の毒を抜く・鯉の生き血やイモリの黒焼きを食べさせる・
猿の肝・高麗人参なども次にあげられた。


そして最後に驚いたのは、労咳の患者は黒猫をかえばいいと思われていたこと。
あまりの突拍子もない情報に、驚く私と……なんでもいいから縋り付きたいと望む私。