「わっ……私は……」
そう私は今回こそ、ちゃんと晋兄を見届けるって決めた。
義助をちゃんと見届けたみたいに……その為に京からここまで来たのに……。
「もう気が付いているだろう。
俺の病は労咳だ。
労咳はうつるんだ。
だからこそ、誰にも知られずにひっそりと隔離されている方がいい」
「舞さんだったね。
どうか、高杉の気持ちを汲んでほしい。
先日、高杉からの文に病のことが記されていた。
次の桜が見れるかどうかだと、医者には告げられたそうだ。
高杉を慕うものは多い。
だが労咳は感染する。
高杉は皆に病を移したくないんだ。
今こうして、見舞いに来た私にすら用が済んだらすぐに出ていけと、その一点張りだ。
ゆっくりと見舞う時間すら与えてくれない。
そんな形でしか、こいつは伝えられないんだよ」
「おいおいっ。
桂さん、長話は外でやってくれ。
舞、お前は今日から別宅だ。
用は済んだ。行っていいぞ」
そう言うと晋兄は、再び桂さんと向き直って何かを話し始めていた。
そんな二人を背に、私は納得できないまま足音を立てて抗議するように部屋を後にする。
部屋を出た私を雅姉さまは優しく抱きしめてくれた。
「舞、貴方にも心配ばかりかけるわね。
でも私もあの人の考え方には賛成よ。
晋作はね、私ですら近くに置こうとしないのよ。
でも私はあの人の妻なのよ。
私は私の好きなように、あの人の残された時間を一緒に刻みたいと思った。
今まで、こうやって穏やかに過ごせる時間なんてなかったもの。
本当なら、今もあの人は桂さんと一緒に長州の為に駆けまわりたかったと思うの。
だけど晋作は労咳になって、思うように動けなくなった。
悲しい出来事だけど、それでも神様がくれた贈り物なのかもしれない。
今の私はそんな風にも感じられるの。
私も隠れ家で四六時中一緒に居られるわけじゃないわ。
貴方も、そしておうのさんも、あの人を思うならあの人のいうとおりにして、
通えばいいのよ。
毎日通って時間帯で役割を持って、あの人が手が欲しいときに……すぐに手助けが出来るように……ね。
舞、傍に居ても出来ないことは沢山あるの。
離れてこそ、その人の為に出来ることに気が付くこともあるのよ」
その日、私は桂さんが整えてくれた住まいへと、おうのさんと移った。
雅姉さまとおうのさんが中心になって、
時間帯を決めて、晋兄の隠れ家へと通い詰めてお世話する。
私も時折たまらなくなって隠れ家に向かう時もあったけど、
晋兄の許可を貰えなくて、隠れ家の中に入ることは出来なかった。
急に距離を取られたみたいで、苛立つやら、悲しいやら。
捌け口のない感情を弄ぶように私は周囲を闇雲に歩き回る。
すると何人もの農民のような恰好をした人たちが、
晋兄の隠れ家へと近づいていく。