四境戦争が終わった後、晋兄は下関の隠れ家でふせることが多くなった。
何度も血を吐いているところを目にした。

そのたびに、晋兄は何でもないという様に手を振って口元を水ですすぐ。



「ねぇ晋作、教えてくださるかしら?
 何時からお加減崩されていたの?

 手紙にはそのようなこと、何も記されていませんでしたわね」


共に生活するようになった雅姉さまは、
私が聞きたかったことをズバっと、晋兄を両断するように切り込んでいく。



「四境の前だ。
 体の異変を感じ始めたのは。

 そんなこと言えるかよ」


小さく呟いた晋兄は、そのままそっぼむくように雅姉さまの背を向ける。


「まぁ、そんなに前ですのね。
 最初に喀血されたのは?」

「三か月」

「自覚症状から三か月で、喀血ですって?
 その間、気になりながらもお医者にはかからなかった。
 そう言うことですわね」


なかば、呆れるように、一つ一つ確認するように言葉を告げる雅姉さま。



すると隠れ家を訪ねてきた珍しい客が姿を見せる。



「雅さん、高杉を叱らんとってください。
 高杉にそこまでの無理をさせたのは、僕たちにも一員がありますから」


そう言いながら姿を見せる。


「おぉ、桂さん」

「起きなくて結構。
 土産だ」



そう言って風呂敷に包んでいたものを雅姉さまに手渡した。


「まぁ、有難うございます。
 後で煎じて飲ませますわ。

 さぁ舞、お話の邪魔をしてはいけませんわ。
 席を外しましょうか?」


私に声をかけると、雅姉さまはスーッと立ち上がって晋兄の寝所を退室していく。
その後ろに続こうとした私に、晋兄は「舞」っと呼び止めた。




「はい」

立ち止まって返事をすると、晋兄は床で体を起こし桂さんの手を借りてゆっくりと立ち上がると、
私へと向き直った。



「舞、桂さんに頼んで別に家を用意した。
 おうのと共に、そちらへ移ってもらえるか?」



突然告げられた言葉に私は、頭が真っ白になった。