「山崎さんは本当に花桜が好きなんですねー」


思わずそうやって切り返すと山崎さんは、「守ってやりたいんや」っと
照れくさそうに教えてくれた。

その日、山崎さんがお世話になっていた宿の人に話を付けてくれて、
通いで働かせてもらう形になり、私は山崎さんが暮らしている長屋へと住処を移すことになった。



「岩倉、暫くの間はオレの傍で我慢してな。
 はよー、沖田さんの傍帰りたいやろうけど、後少ししたら大坂の商人の船がここに来ることになってる」



山崎さんの言葉を信じながら私は一つ屋根の下、山崎さんとの奇妙な仮夫婦生活を演じていた。




長屋から仕事場まで、いつものように歩いていると桜吹雪が目に留まる。


そんな桜の木の下へと近づいて、ゆっくりと桜の幹へと指先を触れる。
そして花びらを一枚、手のひらへと掬い取った。




それをそのまま懐紙に包んで胸元の着物のあわさへと片づけると、
仕事場へと急いだ。


女将さんに声をかけて暫くの間働かせてもらった後、
私は再び長屋へと戻る。



長屋に辿り着いた私は、晩御飯の支度を始めて行く。

その日、山崎さんの帰りはいつもより遅かった。




食卓に晩御飯の支度をして壁にも持たれるように腰かけたまま、
匂い袋をとって、クンクンとかいでみる。


総司がくれた金平糖は、もう食べてしまって入っていた布袋だけが手元に残ってる。




……帰りたいなー……。


京が恋しくなりながら、ウトウトと眠りについていたみたいだった。




「岩倉、おそうなってしもたな。
 明日、大坂に向けて船が出る。

 京には先ぶれを出しといたさかい、大坂には誰かが迎えに来てくれるやろ」



帰ってきて早々、私に話を張り出した山崎さんはそのまま、
私が作った食事を食べるべく、食卓についた。


山崎さんの向かい側に座って、私も食事を終えると洗い物を片づけて布団へと入った。



翌朝、早々に支度をさせられると、長屋を早々に出て港へと向かった。
荷運びしている船の前、山崎さんが声をかけて私のことを頼んでくれているみたいだった。




「類さま、どうぞこちららに」


仮の名で私のことを呼ぶと、私はその声の方へと足を進めた。



「こちらが、先ほどお話ししました類さまです。
 大坂にいる思い人の元へとお送りいただきたく……」

「えぇ、構いませんよ。
 あかつきさんには、私どもも良くしてもらってますから。
 持ちつ持たれつですわ」



そう言って、船の持ち主は快く承諾してくれて私は乗船許可を貰った。

乗船間近、山崎さんから手渡されたのは新選組の副長宛への手紙と、
小さな木箱。