広島行き……そうだ広島に一緒に来た人たちって誰だった?
一回目の広島行きも、二回目の広島行きも確か、伊東さんは来てたはずなんだ。



もし……別行動をしてるのが伊東さんなのだとしたら……、
彼はこの時から離脱するための手回しを始めるってことなの?


そう思ったら、いてもたってもたまらなくなって、
私はこの場所で出来ることをやってみたいって思った。


私が思ってるのが本当のことなら、この時に何か出来ていたら歴史は変えることができるのかもしれない。
そんな風にも思ってしまう。


鴨ちゃんがずっと大切にしていた新選組。
総司の居場所であり、総司の大切な新選組。


そんな新選組の未来の為に、私が出来ること……。
運命を変えちゃいけないって、ずっと縛り続けてたけど……、どんなに変えようと望んでも
変わることなんてなかったけど、だからってあきらめてなかった?

私、本当の心からその運命を変えたいって望んでた?
本気になってた?


自問しても、自信がない私には……本気になってたなんて言いきることはできない。
だったら今から私もちゃんと、自分自身の思いのまま動き出してみたい。


未来から来たよそ者の私じゃなくて、
花桜や舞が、覚悟を決めたみたいに私も私として本当の意味で歩き出したい。



そう思った私はいろんな噂話を手掛かりに薩摩の人たちが出入りしていると言うお店に、
雇ってもらって、仕事をしながら少しでも手掛かりを欲しくて聞き耳を立てる。


「あかんやろ。
 花桜ちゃんが心配するで」


そう言いながら、密会している部屋の近くで掃除をする振りをしながら聞き耳を立てていた私の体を背後から羽交い絞めにして
ささやいた。

「やまざきさん……」

ささやくように口だけを動かして名前を呟く。
そんな私の傍に、久しぶりに姿を見せたのは「あかつき」と名乗っていた山崎さんだった。




「あぁ、そこの店の人。
 ちょっとこっちの部屋来てくれるかぁ。

 酒、こぼしてしもてなぁ」


っとその後は、大声で私を呼ぶ素振りをして、私も「はーい」っと声をかけて山崎さんに誘われるように
密会をしている部屋の隣へと入室した。


山崎さんが「あかつきさん」として生活している荷物が無造作に置かれていた。



「あぁ、堪忍なー。
 そんなに畳、濡らしてしもて」



なんて汚れてもいない畳を見つめながら、山崎さんの声だけが部屋に響く。


隣の部屋で宴会をしているように装いながら、
確実に一番近いところで密会の情報を入手していく。



そして隣の部屋から次第に足音が遠のいていった。




「さて、今日の仕事はとりあえず終わりやな。
 岩倉、萩はどうやった?」

「山崎さんが頼んでくださった林蔵さんがとてもよくしてくださいました」

「そうかぁ。
林蔵からは岩倉が戻ったこと聞いてたんやけどな、
 捕まえるのがおそうなって堪忍な。

 しっかし、岩倉も知らん間に大胆なことするようになって、
 岩倉になんかあったらておもたら、オレぞっとしたわ。

 花桜ちゃん、泣かせとうはないからな」


そう言って山崎さんは、柔らかい笑みを浮かべながら花桜の名前を呟いた。