「山波、後で顔を出せ」

朝餉の席で、土方さんに声をかけられた。


瑠花が広島へ出掛けた後も、
近藤さんたち他の隊士の人たちは一度帰ってきて、
再び、広島へと向かった。

二度目の広島行きからも、すでに帰ってきてる。



だけど丞は未だに、私の部屋を訪ねてこない。
多分、彼はまだ仕事中なのだと思う。


広島から出掛けていた人たちが帰ってきた後、
屯所内はいつもと同じように見えて、何か違って見えた。


派閥というか、グループみたいなものが、
傍から見て明確にわかれてきているような気がする。


隊士たちは日々、道場で鍛錬を頑張っている声は轟くものの、
次々と粛清されていく隊士たちの存在に、
恐怖や不満を覚えていく人たちの声も、ひそひそと聞かれるようになった。


そんな声を知りながらも、土方さんは態度を変える気がないみたいで、
新選組の中でも、何処か孤独に何かと戦っているようにも映った。



朝餉の後片付けを終えると、私は約束通り土方さんの部屋を訪ねた。



「遅くなりました。山波です」

「入れ」



部屋の主の許可をもらって襖に手をかけて中に入ると、
土方さんは今日も筆を手に仕事をしているみたいだった。



「おぉ、山波。呼んだのはこれだ」


そう言って土方さんが私の前に差し出したのは、
花桜へっと私宛に、瑠花から書かれた手紙だった。


「土方さん……」

「山崎からの報告と共に同封されていた。

 山崎の報告の末尾にも記されていたが、
 岩倉が明日、大阪へ到着するようだ。

 総司にも伝えておく。
 大阪へ迎えに行ってやれ」

そう言うと土方さんは、とっとと出ていけ邪魔だっと言わんばかりに、
指先で払いのけて、また筆を動かし始めた。