「私は晋作が用意してくれた屋敷から、
 あの場所に毎日通って身の回りのお世話をすることにします。
 それより舞、私が来たからには貴方には危険な真似はさせませんわ」


そう言ってくれる、雅姉さまの気持ちは嬉しかったけど、
それでも今の私はちゃんと晋兄と共に戦っていきたいって思ってる。



「雅姉さま。
 私は自分の意志で戦いの場に身をおいています。
 私自身が歩く道に後悔はしたくないから」

「舞……。
 本当にあなたは、どうして険しい道ばかり歩こうとするのです。

 京に居る、貴方の身を案じて遠い萩まで訪ねてきてくれたお友達は大丈夫なのですか?」


ふと旅立つときに三人お揃いで用意した香袋へと手を伸ばした。
花桜や瑠花の顔を思い浮かべて夜空を見上げる。


「私が決めた道だったら、瑠花も花桜も二人とも応援してくれると思うんです。
 だから雅姉さまも、見守ってくださいね」


そうやって告げると、それでも心配するように雅姉さまは私を抱きしめた。


その数日後、恐れていた日はとうとう来てしまった。

幕府軍は大島口へと奇襲攻撃を仕掛け戦いの幕は開かれた。
武力の差は圧倒的で、大島口、芸州口、石州口、小倉口と被害は拡大していった。

そんな状況に形勢逆転への突破口をかけて海軍総督として丙寅丸に乗り込んだ晋兄は、
周防大島方面の幕府艦隊に向けて夜襲にて攻撃を仕掛けた。

僅かな明かりを目指して次から次へと勢いよく大砲を打ち込み続ける勢いに恐れをなしたのか、
停船していた船は少しずつ撤退していった。



陸の方での戦いも、薩摩経由で手に入れたミニエー銃を装備していたおかげもあって、
幕府軍に数では劣るものの訓練の成果もあって確実に狙い撃ちして勝利をおさめていく。


ミニエー銃を同じく持つ、紀州藩との戦いでは苦戦を強いられる時もあったようだけど、
長州が優勢と言うのが情報を整理した晋兄の考えみたいだった。


戦いの合間は、仲間たちの指揮を落とさないように、お酒を飲んでどんちゃんする。
常に指揮を高めながら、やるときはやる、そんな晋兄の生き様は傍で見ていて、カッコよさと不安が入り混じる。




ある時を境に、晋兄は仲間たちとの宴会の時も、一線ひいて距離をとっているのに気が付く。
いつもと変わらないように、戦中とは思えないような着流しを着こなしながら、お酒を口元に運びつつ
三味線を奏でながら唄を歌う。



いつもと同じようにみて、どことなく違和感を覚える時間。