「おぉ、暁【あかつき】さんや。
帰ってきたかー」
そう言って、そこでお酒を楽しんでいた人たちが山崎さんを招き入れた。
「誰や、可愛い女子連れて」
「林蔵【りんぞう】さんに少し頼みごとがあるんやけど」
そう言って、山崎さんはいつもよりも口調と話し方を変えて、
私のことを林蔵さんに頼んでくれる。
それと同時に手間賃となるものを、相手の手のひらへとのせる。
「暁さんの頼みやったら、無事に萩までお連れしましょう。
ただあちらは今、命の保証はありません。
それでも宜しければ……ですが」
林蔵さんは同意を求めるように、私の方へと視線を向けた。
「お願いします」
深くお辞儀をして告げると「出発は明朝」っと切り返して、
その人は布団の中へと潜り込んだ。
「類、隣に部屋を用意した」
そうやって聞きなれない名前で私を呼ぶと、
山崎さんは隣の部屋へと私を誘導した。
「瑠花と言う名はあまりにも珍しい。
この旅の間は類で通すといい。
林蔵は長州出身の商人で、加賀が知り合いだと話していた久坂や高杉、桂たちとも繋がりがあるようだ。
うまくいけば、加賀にもあうことができるだろう。
っとまぁ、そう言うことだ。
今日はゆっくり疲れとって、明日からきばりや」
っと最後の最後で、私が知る山崎さんの口調へと戻った。
「わいは、外にいる。
ゆっくり布団で休みや」
そう言うと蝋燭の明かり消して山崎さんは部屋の外へと出て行った。
翌朝、私は林蔵さんに連れられて行商に紛れて、
萩へと入ることが出来た。
高杉さんたちが起こしたクーデターは、
次から次へと人数を膨らませて村人たちの怒りを携えて萩のお城へと向かっていく。
林蔵さんは、そんな革命勢力の人たちに援助するための物資を準備して、
他の商人さんたちと一緒に援助している一人だった。
「高杉さんは今何処でしょうか?」
そう言って、林蔵さんは質問してくれる。
「私は高杉さんと共に行動しているはずの、舞を訪ねて京から参りました。
高杉さんの傍に、私くらいの女の子を見かけた方はいませんか?」
そう言って頭を下げる。
ようやく舞が居るであろう場所へ少しでも近づけた日、
私はどんな手掛かりでも見つけたい。
「雅さまなら、その者を知っているかもしれません。
私は一度、戦女神を見たことがあります」
なんて、そんな風に言う人も現れた。
握り飯を作って振舞ったりとその日は、
次の戦に備える人たちの為に手伝えることをして、
次の日、再び林蔵さんが私を連れて移動を始めた。
辿り着いた場所は何処かのお屋敷だった。
京から何日もの時間を過ごして、
皆のぬくもりを感じながら辿り着いたのは、
高杉晋作の奥さんが過ごしている住処。
はじめて私の対面したその人は勇ましいと思える女性だった。