先の第一次長州征伐で幕府と諸藩の数万の軍勢はこの地に集結した。


周辺地域に住む人たちは軍馬や宿泊の手配、物資の搬送などに駆り出され、
領民たちの食べ物すらも軍隊へと取り上げられたのだと言う。




そんな愚痴にも似た怒りを去り際にぶつけてくる人もいた。



だけどそんな領民たちとの関りが、少しずつ私が知らない今の現状を教えくれた。




長州の人を探していると言うだけで役人に追いかけられそうになって、
慌てて身を隠すようにお寺や神社の境内へと逃げ込むこともあった。



うまくいかなくて、折れそうになる心を支えてくれたのは、
旅立つときに総司が持たせてくれた金平糖。

金平糖を指先でつまんで、ポイっと口の中に広がると
甘さが口の中いっぱいに広がって、思わず頬が緩む。

それと同時に、諦めちゃだめだって思える。



近藤さんたちと別行動をはじめて何度目かの夜を迎えた時、
息を潜めて疲れた体を休めながら目を閉じていると、
何人かの足音が聞こえてきた。



「居たぞ。あそこだ。追え追え」


そんな声に慌てて飛び起きると、私も捕まってしまうかもしれないと
慌てて逃げだす準備を整える。




「岩倉、じっとしてろ」


慌てて飛び出そうとしていた私の体を誰かが掴むと口元を塞いだまま、
聞きなれた声が聞こえた。


「階段を下りて行ったぞ」


山崎さんは誰に言うでもなく、そうやって声を発すると再び私の方へと視線を向けた。




「もう大丈夫かなー。
 危なかったなー岩倉。
 岩倉になんかあったら、わい花桜に向ける顔ないさかいな。

 けど……加賀探してたんちゃうの?
 まだこんなところに追ったんかいな。

 もう何日たったか知ってるか?」



呆れたように言う山崎さんに、
私も半ばため息を吐き出しながら指折り数えた。




「山崎さんはどうしたんですか?」

「わいは仕事や仕事。
 局長は長州に入国できるように策を講じているみたいやな」

「交渉は順調なんですか?」

「いやっ難航してそうだねー。
 さてなら瑠花ちゃんの本題やな。

 わいの仕事ぶりに驚いたらあかんで」



そのまま山崎さんに連れられて、
隠れていた神社から離れると旅館らしきところに連れられた。