木刀を構えたまま「お願いします」っと大きく声を出した後、
藤堂さんに向かって打ち込んでいく。


「山波、踏み込みが甘いよ。
 そんなんじゃ、相手の懐に入り込む前に斬られる。

 木刀と真剣の重さを間違えると実戦では戦えないよ。
 総司にも言われなかった?」


そうやって私が次から次へと打ち込んでいっても、
藤堂さんは一つ一つ、木刀で受けながらも、他の隊士たちの打ち込みも受け止めてる。


それでも余裕が感じられるのは、どうしてなんだろう。



経験値の差?
実戦の差?



だけどそれだけじゃない気がする。



打ち込みを続けながらも私は自分自身に冷静になれと、
無心になれと言い聞かせる。

無心になることで集中力が一気に引き出せる。


目に見えるものだけに捕らわれず、それで居て感じられる視野を少しずつ広げていく。
何処か隙となる一点だけを突けるように。




他の隊士たちの打ち込みを受けて、次に繋げる一瞬の瞬間。
僅かに体制を切り返すまでに乱れる隙間がある気がする。


何度も何度も打ち込みながらも、藤堂さんと他の隊士たちにも意識を集中させる。
その隙間に、いつも以上に少し踏み込みを早くして打ち込む。



藤堂さんは驚いたように僅かに体制をいつもより長い時間見だしたものの、
すぐに柔軟に対応して着地を成功させると屈みこんだままから私の方へとまっすぐに木刀の切っ先を流れるように運んで、
胸の前でスっと寸での位置で止めた。



私に近しい正面で立ち上がった藤堂さんは、
そのまま木刀を私の胸元から戻す。



「おっ、つい本気になっちまったな。
 山波、良く見抜いたなー。オレの癖。

 けど癖を見抜いても、その後のツメが甘いぞ。
 もっと実力つけろよ。


 ほらっ、お前らも山波以上に本気を見せろよ。
 ビシビシ、しごといてやるよー」



そう言いながら、藤堂さんはまた隊士たちの輪の中に戻っていく。



胸元すれすれでピタリと止まった瞬間の木刀。
そのスピード。


あれが真剣だったら……あれが実際の戦いだったら、
間違いなく私の命はない。