私が話す言葉を不思議なものを聞くように、耳を傾けてくれる井上さん。


「山波君が話してくれたその不可思議な機械が、便利なものだというのは十分に伝わってくるよ。
 今はこうやって炊事するのが当たり前の時代。

 だが君が来たと言う未来には、そんなにひらけた時代となっているのだね」


その後、井上さんは何処か遠くに思いを馳せるように、目頭へと指先を触れさせた。




「さて井上さん。とっとと運んじゃいますね。
 皆、お腹すかせてますよね」

「あぁ、すまないねー、山波君」




お盆に次から次へと茶碗やお皿をのせて、食道として使っている部屋へと一気に運び始める。



「おっ、朝飯かぁー。
 お前ら運ぶの手伝えよー」


朝稽古を終えた隊士たちが私の姿を見かけたとたんに、
手洗いの後、すぐに私の方へ近づいてきて次から次へと朝食を運ぶのを手伝ってくれる。


隊士たちの輪の中に入って朝ご飯を一緒に済ませると、
後片付けを手伝ってもらって、次は洗濯、屯所内の掃除。


やるべきことは広くなった上、瑠花たちがいないから多いけれど、
それでも皆が手伝ってくれるようになったから、それだけで私の居場所が出来たのだと実感することが出来た。



家事を一通り終えると、もう太陽は高くなってるけど、
それから私は道場へと向かう。


道場には常に隊士たちが訓練する声が響いていて活気づいてる。



「おぉ、山波来たかぁー。
 遅かったじゃねぇかー。
 ほらっ、そこに入って基本の素振りで体温めろよ。

 そしたら総司が来るまで、オレが稽古つけてやるよ」



そういって、隊士たちに激を飛ばす傍らで屈伸運動を始める藤堂さん。
身軽な動きで肩を回したり、準備運動してくるその人はちょっと楽しそうで。



「えっと、藤堂さん……沖田さんは?」

「あぁ、総司はちょっと野暮用。
 用事が終わったら帰ってくるよ」


そう言うと、身軽な勢いのまま隊士たちの輪の中へと駆け込んでいく。



「さぁ、負かせるものなら打ち込んで来い。
 どこからでもいいぜ」


なんて戦闘モード全開。


そんな沖田さんが指導している時とは違った、
空気を感じられる道場の中ウォーミングアップの素振りの後、
私もその隊士たちが藤堂さんに打ち込むために並んでいる列の最後尾へと続いた。