舞に続いて瑠花までもが離れてしまって、
京には私一人なってしまった。

この世界に来て以来、何かと気にかけていてくれた山崎さんも
近藤さんのお供として広島へ出掛けてしまった。


寂しくなったっていったら嘘じゃないけど、
それでもそこまで不安を感じないのは多分、この場所でも私の居場所が
少しずつ出来てきたからなのかも知れない。


噂では長州の方で誰かがクーデターを起こして、
ここ京でも、それに反応するように不逞浪士たちがあちらこちらで騒動を起こしていた。

そんな中、今日の取り締まりをする新選組は、
日々、それぞれの組に分かれて巡回を続けていた。



「山波君、少しこちらを頼んでもいいかな?」

「はいっ。井上さん」



舞だけでなく瑠花までもが不在になった今、
朝餉を作るの一つにしても少し早起きしなければいけなくなったし、
分担していた掃除も、他の隊士さんたちにも協力して貰ってるにしろ増えることになった。



だけど私にとっても、今からが踏ん張りどころ。


今も部屋に綺麗に折りたたまれている山南さんから託された浅葱の羽織と、
一族から託された、赤心沖影が私をちゃんと導いてくれると思うから。


この旅が終わりを迎える日まで。




味噌汁の味見をして漬物を刻んでいく。


「山波君、すまなかったね。
 昔に比べて随分と手際が良くなったものだ」

そう言いながら、柔らかな眼差しを向けてくれる井上さん。



最初来た頃は、ガスはないし、調味料と言っても現代みたいに便利なアイテムがあるわけじゃないし、
皮むき器もない。計量カップもない。

釜の火加減一つにしても大変だし、炊事場の暑さにもなれなかった。



そんな中に突然放り込まれて、小姓として必死に歩き出してたあの頃が少し懐かしく思えるようになった。




「井上さん、私が住んでた世界に来たら本当にびっくりしたと思いますよ。
 ご飯を炊くのはこうやって火をかけて釜を置かなくても、炊飯器って言うのがあるんです」

「すいはんき?」

「そう。炊く飯の機械で炊飯器。
 お米を洗って、お水をいれるとボタン一つで、セットした時間に美味しい炊き立てのご飯が食べられるんです。

 他にも大量のじゃがいもの皮をむくときにも包丁を使わなくて皮むき器って呼ばれるアイテムがあって、
 火の代わりにガスって言うものも空気窓の調節で火加減をしなくても、やっぱりボタン一つで思う火加減に出来ちゃうんです」