雅姉さまが抱き上げると、子供はすぐに泣き止む。
その子はすぐに雅姉さまのお世話係なのだろうか、
私たちのところへお茶を運んできてくれた女の人が抱きかかえて、
何処かへと連れて行ってしまった。
「さぁ、どうぞ」
雅姉さまの声で私は、お湯のみに手を伸ばしてお茶を口に含んだ。
「さぁ、舞。
晋作の話を聞かせてちょうだい。
私が傍に居ない間、あの人はどんなふうに過ごしていたの?」
私は求められるまま、晋兄と出会ってから今日までの出来事を話していく。
「まぁ、舞ったら萩のお城に攻撃をしかけたと言われる、
あの船にも乗っていたのね。
もうあの人ったら……、何を考えているのかしら」
私の話語りに雅姉さまは、時折、思うことを吐き出すように告げながらも、
その表情は少し寂しげになっていく。
「雅姉さま……?」
気遣う様にそっと見つめると、雅姉さまは少し瞳を潤ませていた。
「まぁ、泣いてはいけないのにどうしてかしら?
私、晋作の傍に居られる舞が、少し羨ましくなってしまったのかもしれませんね。
でも私には高杉の家の為に、成すべき道があります。
その為に、私も今は強くならねばいけないのですから」
そういいながら視線を向けるのは、晋兄との間に出来た子供へ。
柔らかくそして力強い眼差しで見つめる、
その瞳に私も力強さを貰えた気がした。
「舞さん、そろそろお暇のご準備を」
すると何処かに消えていたセンさんが再び姿を見せて静かに告げた。
「はいっ。
センさん、すいません」
「舞、また一つ頼まれごとをお願いできますか?」
そうやって、姉さまが風呂敷に包んで持って出てきたのは、
前の同じように、晋兄の為に心を込めて仕立てた着物。
「雅姉さま……」
「ちゃんと今回も晋兄に手渡します」
「えぇ。あの人からは帯やら着物やら行く先々が贈り物は届くのです。
ぬくもり溢れる文と共に。
それ故なのでしょうか?
私も晋作に何かをして差し上げたくなるのですよ。
さぁ、こちらは舞への贈り物ですよ。
私の着物を縫い変えたものですが、何かの時に役に立つでしょう。
後、舞にはこちらを……。
貴方を訪ねてきたものがいました。」
そうやって手渡された手紙。
そこには……遠く京に居るはずの、友の名前が記されていた。
雅姉さまとの別れを惜しんだ後、私は再びセンさんに連れられて晋兄の元へと連れられた。
合流して船で海を渡って向かったのは長崎。
長崎ではすでに先周りしていた、おうのさんが晋兄が過ごしやすいように部屋を整えてくれていた。
晋兄の三味線が鳴り響き芸子さんたちが舞を披露しながら、ひと時の宴が開かれる。
晋兄が身にまとうのは、雅姉さまから預かったばかりの着物を着流して……。
晋兄は長崎についてからは、慌ただしく動き回る。