「晋兄、私も連れて行ってもらうから。

 晋兄が山口のお城でやるべきことをしている間に、
 私は雅姉様に会ってくるんだから」


「あぁ、好きにしろ」

「おうの?お前は?」

「私は一足先に長崎へ参ります。
 何時、晋さまがいらしても、落ち着いていただけるように、
 私は整えておきます」


そう言って畳の上で正座をして晋兄にゆっくりと流れるような仕草でお辞儀をする。


「任せる、おうの」

「行ってらっしゃいませ。
 お早い、お帰りを」


そんな声に見送られて、私は晋兄と四国を離れた。


四国から山口へと入ると、
すぐに晋兄の周囲には晋兄を必要とする人たちで溢れかえっていく。



「おいっ、手が空いてる奴がいたら、
 面倒だが、こいつの傍に居てやってくれ。

 雅に会いたいそうだ」


そう言うと、すぐに晋兄を訪ねてきた人が近くにいた人に声をかけて、
私の傍へと案内された。



「雅さまの元へ、ご案内いたします」


そう言うと、一礼して私を先導するようにその場を離れた。



「舞さんでしたね。
 ご無沙汰しています」


そう言って声をかけてくれたのは、先の戦いで一緒に船に乗っていた『セン』と呼ばれていた人だった。


「センさん……。
 見違えました。今は髭も剃って、さっぱりされてるんですね」

「これは手厳しいですね。
 舞さん」

「雅姉様は何処に?」

「それは俺に任せてください。
 あの戦いの後、高杉さんに頼まれてすぐに雅さんの居場所を探しましたから。

 何せ、藩にあだなすお尋ね者の奥方様ですからね。
 殺されていてもおかしくない状況でしたから、戦いの最中も高杉さんは心配してたんじゃありませんか?

 それでも雅さまのことをしっかりと信じておられて、
 俺たちの為に、長州の未来の為に決起してくれた。

 本当に感謝しています」



そう言って、センさんは私に晋兄と雅姉さまの絆を話してくれた。

センさんと歩き続けて30分ほどたったころ、
勝手口の前に立つと、その扉を手慣れた手つきで開けて中へと私を招き入れた。




「雅さま、お待たせいたしました。
 今朝方、お話ししました雅さまのご客人です」



そう言ってセンさんは、親しげに中にいるその人へと声をかけた。
庭を通って屋敷内に入った私は久しぶりに雅姉様の姿を見た。



「雅姉さま……」



小さく名前を呟いたまま立ち尽くしてしまった私のもとに、
雅姉さまは近づいてきて優しく抱き寄せてくれた。


雅姉さまの温盛が私の硬直を溶かしてくれる。


「おかえりなさい。舞、元気にすごしていましたか?」


そう言って雅姉さまは、両手で私の頬を挟んだ。


「ただいま。
 雅姉さまからお預かりした着物は、無事に晋兄に渡せました」



すると中から元気な子供の泣き声が聞こえる。


「あらっ、お昼寝をしていたのに起きてしまったのね。
 さっ、舞もお上がりなさい。
 奥でお茶でも致しましょう」


そう言うと、雅姉さまは子供の方へと向かっていった。


「晋作に似ているでしょう。
 本当に、この子の放ってあの人は何をしてるんでしょう」



そうやって呟いた雅姉さまの声が、
私の心にやけにこびりついた。