「今回の広島で近藤さんの命がどうなるかは、
 今の私にはわかりません。

 私が広島に同行したいって言いだしたのは、私自身を見つめなおしたいと思ったんです。

 花桜は、ここにきてからいつも自分の問題とまっすぐに向き合っていました。
 舞も、今どこで何をしてるかはわからないけど、自分の信じた時間を自分の足で歩きだしてます。

 だけど私は……鴨ちゃんに守られて、総司に守られて……ずっと自分の足で立つことすら出来てない気がするんです。
 だから少しでも、京を離れて甘えることのできない環境に身を置けたら、自分を見つめなおすきっかけになるかもしれないって
 思ったんです」



そう……こうやって、決意している今も私は近藤さんに連れて行ってもらえたらって言う、
甘えが隠れてる。


だけど……それでも、少しでもきっかけが得られるのであれば、
そのチャンスを自分のために利用したいって、貪欲に考えられるようになったのも確かな今の形だから。


最初は渋っていた近藤さんも、会うたびに願い続ける私に根負けしたのか同伴を許してくれた。


この世界に来て、初めて……親友たちと別行動を選択する私。
これでずっと守られてるだけの私じゃない。




出発の朝、花桜は私の部屋を訪ねてきて、いつの間に手に入れてくれていたのか私の手にお守りを握らせてくれた。



「瑠花、本当に無茶苦茶なんだから。
 広島だよ。遠すぎるよ」

「ごめん。相談もしなくて。
 でも……ちゃんと自分の意志で誰にも左右されないで決めたかったの。

 広島で近藤さんと離れて、向こうで舞を探してみたいって思ってる」

「舞を?」

「うん。だから花桜は、総司のことお願いね」

「お願いって、私が沖田さんに出来ることなんてないわよ」

「剣術では総司は花桜の先生だもんねー。
 私が見守っててほしいのは、総司の体のこと。

 私が帰ってくるまで、総司が無茶しないように監視しててね」



そう花桜に頼むと、私は旅装束の袂に花桜がくれたお守りをそっと忍ばせた。


「広島までは山崎さんも……丞も一緒だと思うから」

「花桜なかなか一緒にいれないね。
 山崎さんと」


ちょっと寂しそうな貌を見せた花桜は、その後視線を明の空へと向けた。


「さて、花桜ちゃん。
 行ってくるわ」


そういって、足音なく花桜の前に着地した山崎さんは花桜をギュッと抱きしめた。


そんな二人の邪魔をしたくなくて、私はそっと部屋を抜け出して門のほうへと向かった。


門前では、すでに近藤さんに同行する隊士たちが集まって、
それぞれの見送りの人たちと束の間の別れを惜しんでいた。


私も、あんなことを言ったにもかかわらず無意識に総司の姿を探してしまう。



だけど総司は見回り中なのか、はたまた腹を立てて見送る気がないのか、
姿が見えなかった。



出発の刻限。
幕府が用意した船は大坂から出航する。

早々に大坂に向けて移動を始める私たち。



そんな私たちを馬で追いかけてきて姿を見せたのは総司。




「瑠花っ」



馬から飛び降りた総司が私の前に立って、
小さな布袋を差し出した。



「総司?」

「道中でどうぞ。
 甘くて美味しいですよ。

 気を付けて行ってらっしゃい。
 瑠花の未来が見つかるといいですね」



総司はそれだけ告げると近藤さんに挨拶をして、
また馬で元来た道を戻っていった。



「岩倉、沖田さんから何を渡されたんや?」


からかう様に、私にちょっかいを出してくるのは山崎さん。
多分、私のことを花桜に頼まれて気にかけてくれてるんだと思う。