山南さんの死をきっかけに、
花桜は今まで以上に剣の道を歩き続けることになった。

春頃から本格的に、天然理心流の技って言っていいのかな?
人を仕留めるための剣を、総司たちに習い始めるようになった。


花桜は花桜で自分の運命と向き合って、
自分の道を歩き始めてる。


舞は今頃、どうしてるんだろう。
ふと、すでにこの屯所から飛び出してしまった彼女のことを思う。


だけどそんな二人を見て確かに言えることは、
二人とも、この世界に足をつけてしっかりと歩き始めてる。


なのに私は……今も流されるようにしか、
この世界に関わることが出来ないでいた。


鴨ちゃんの時も、総司の労咳がわかった瞬間も、
私は歴史で知識を知っているのに、何もできなかった。


私がしていたことなんて、悪戯にこの世界の人を惑わしているだけ。
そんな風にも感じてしまう。


自分の無力さが悔しくなる……何も出来ない私自身が嫌になる。


そんな心の中のモヤモヤなんて誰にも話せるわけもなく……、
ただ平然と過ごせてるつもりだった。


だけどそんな私にも、この世界と生きるきっかけが与えられた。


山南さんの死から間もなくして、屯所が西本願寺へと移り、
それをきっかけに一斉に隊士たちの健康診断が行われた。


その時、医師として隊士たちを診察してくれたその先生が、
私の葛藤に気が付いてくれた。


それを機に私は屯所での雑用と共に療養中の隊士たちのお世話や、
介護の手伝いをするようになった。


雑用と花桜たちの訓練を見ているだけの時間から、
一歩踏み出して、この世界に関わるものとして動き出せたように感じた私の時間。


そして、この状況を自ら望んだきっかけの一つに総司の存在が大きかった。




こっそりと影に隠れて、咳き込んでいる姿を時折見かける。
だからこそ、そんな総司を少しでも助けられる術を知りたかった。


労咳=肺結核が、死病と恐れられていたこの世界で、
私が総司のために出来ることを、お医者様から学びたかった。



「岩倉君だったね。
 今日もご苦労だったね」



先生の一言で、私は最後の隊士の清拭を終えて水の入った桶を抱えて立ち上がる。



健康診断の後、隊士たちに先生たちが強く言い渡したのは屯所内を清潔に保つこと。
体調を崩している隊士たちは、治療のために別の部屋へと隔離することの二つだった。



隊士たちの療養部屋を後にして、私は水を捨てで桶と手ぬぐいを洗いに井戸へと向かう。
井戸で水を汲み丁寧に両手を洗うと、立ち上がって大きく深呼吸した。