張りつめすぎた緊張が緩んだとたんに、必死に地面をつかんで立ち続けていた体から、
ふと力が抜けていくのを感じた。
へなへなと地面へと座り込む私。
「山波君、大丈夫かい?」
気遣ってくれる近藤さんに「大丈夫です。でもあまりの迫力に腰が抜けたみたいです」っと
恥ずかしさを感じながらも素直に告げた。
「あれが天然理心流。私たちの剣だ。
山波君がここに来てから、必死に頑張ってきているのは私たちも知っている。
京の町に見回りに出かけたいと言うのならば、せめて自分の身は自分で守れるようになって欲しいのだ。
君を守るために、他の隊士たちの気がそれることも阻止したい。
そして何よりも、君たちを危険に目に合わせたくない。
その為には、確実に相手から身を守る術も学んでほしいのだ。
少しずつでいい。練習相手が必要なら、総司たちを捕まえたらいい。
君にも、私たちの剣を少しずつものにしてほしい」
そう言うと近藤さんは私の肩にそっと手を添えて立ち上がらせると、
他の隊士たちに呼ばれて、奥の方へと消えていった。
天然理心流。
言葉でしか知らなかった流派。
そして……何度か、戦場にはついていきながら本当の意味で、
相手の命を一瞬にして奪う剣の、何たるかを知らなかった私。
始めて、まじまじと見せられて、感じたありのままの想い。
静かにその場で深呼吸をしながら、
ゆっくりと空を見上げる。
流れていく雲を視線で追いかけながら、
何気なく考えるのは、山南さんと一緒に見た空。
空はずっと繋がっている。
遠く離れていても、空は何時もそこにある。
……山南さん……、
私……天然理心流の技を物に出来るように頑張ります。
そして何時か、堂々と山南さんの羽織をまとって
京の町を歩けるようになりたいです。
昨日と今日を繋ぐ空。
そんな大空に向かって、心の中で静かに話し続ける。