今も晋兄は長州藩からしてみればお尋ね者に違いなくて、
晋兄の周辺をちょろちょろしてる私の存在が目障りに感じてる人たちがいるのも知ってる。


だけど……必死に、晋兄の隣で慣れない刀を振るい続ける私に少しずつ皆が私に居場所を作ってくれた。


私がずっと続けてきた練習が、いかに実践向きじゃなかったのか身に染みて体験した。

返り血を浴びるのが怖いとか、誰かを殺したくないとか思うレベルは存在しない。
何度も死にそうな目にあい、何度も肉を突き刺す感触を味わった。


殺【や】らなければ、殺される。
今、私が晋兄と過ごしている世界はそんな世界なんだから。




必死に戦い続けて今回の目的である俗論派の首魁・椋梨藤太【むくなし とうた】を討つために、
近いうちに、お城を攻略するところまで迫っていた。


その時期を、晋兄は船の中で大きな紙に村人の装いや行商人の装いをした人たちから次から次へと何かを聞いては
筆ですぐに書き込んでいた。



船の中で両手をあげて大きく伸びをすると、
私はそのまま「外の空気吸って来るね」っと声をかけて甲板の方へと向かう。


甲板の上には警護中の仲間たちが警戒しながら動きを偵察してる。




「何か用事か?」

「いえ。少しだけ外の空気を感じたくて」

「今は何もないが、何かあったら危険だ。
 すぐに中へ入れよ」



そう言って気遣ってくれる人たちに「有難う」っと一言声をかけて、
私は再び大きく両手をあげて息を吸い込んだ。


頬を掠めている冷たい潮風。

風にたなびいていく髪の毛を右手で少しだけかきあげながら、
雲の合間から姿を見せるお月様をじっと眺める。





花桜……瑠花……元気にしてる?
今も京にいるのかな?

徳川幕府と長州の戦いがあったって聞いた……。


その戦いは、なんだっけ?
もっとその辺り、真面目に瑠花みたいに勉強しておけば良かったのかもしれない。

だけど……ううん、違う。
今、そんなこと言っても時間は戻らないんだから、今、私が出来ることを今回は後悔しないように生き抜くだけ。




花桜や瑠花に今度は何時会えるのかな。
もう少しだけ……もう少しだけ、私は私らしく過ごしていたいんだ。

大切な人たちが過ごすこの場所で。


だから……もう少し待っててね。
何時か、その場所を私も目指すから……。