「近藤さん……」
「あぁ、伊東先生が詠んだ一首だ。
すまないが、それを総司に見せてやってくれ」
「はい……っ。
では、私は失礼します」
再び一礼して、預かった一首が綴られた紙を握ると屯所を飛び出した。
屯所内にいないのなら……総司は、鴨ちゃんのところにいるような気がしたから。
真っ暗な夜道をお寺の方へと駆け出すと、
何処かで咳き込む声がシーンと静けさの残る空間に響く。
「総司っ!!」
足元をとられて転倒しそうになりながらも、
ようやく辿り着いた私と、一目視線をあわせた後、彼はうずくまる様に倒れこんでしまう。
「総司っ!!総司っ!!
誰か……誰か来て」
取り乱すように総司の傍に座り込みながら声を上げるしかできない私。
「岩倉、今行く」
そう言って聞きなれた声が響くと、
すぐに斎藤さんは総司を抱きかかえて、屯所へと連れ帰ってくれた。
そのまま向かうのは、土方さんの部屋。
「副長、斎藤です。
沖田が倒れました」
そう言って土方さんの部屋に運び込まれると、
そのまま布団へと総司を寝かせる。
「山崎を」
土方さんの声に斎藤さんはすぐに部屋を出て山崎さんを連れてくる。
山崎さんの処置の後、私はその夜……土方さんの部屋で総司に付き添って一夜を明かした。
いつの間にか眠ってしまっていた私は、体に着物がかけられていることに気が付く。
「目が覚めましたか?」
そう言って、外を見つめながら私に声をかけるのは……総司。
「気が付いたの?」
「……はい。心配かけたみたいですね」
そう言いながら、障子を閉めて私の傍へと近づいてくる総司。
「……ごめんね……。
すぐに傍に行けなくて……でも良かった……」
それ以上は、言葉には出来なくてただ総司の胸の中に倒れこむように抱き着く。
戸惑ったような総司も、暫くして私をギュっと抱きしめてくれた。
「ねぇ……聞かせて……総司が抱えているもの。
一人で苦しまなくていいから、ちゃんとわけて……鴨ちゃんの時に言ったよね」
「……大丈夫です……っと言うより、うまく言葉には出来ないんですよ。
ただ……それでも、僕の心は、迷いの闇にとらわれていない。
あの時同様、彼もまた……僕を選んでくれた。
その思いに僕は精一杯答えられたと……今は思うのです。
だから……大丈夫だと」
そう言いながら、総司はゆっくりと微笑んだ。
「ねっ、総司……昨日、近藤さんから預かったの。
伊東さんが山南さんを偲んで詠んだ弔歌」
そう言って私は預かった紙を総司へと手渡す。
流麗な筆使いで記されたその句を総司は声にする。