ふと立ち止まって、その障子へと視線を向ける。
……皆、不器用なんだから……。
小さくため息を吐き出して、私は花桜の部屋へと再び歩みを進めた。
花桜の部屋には、先約がいるのがわかった。
『花桜ちゃん、思いっきり泣いたらええ』
部屋の中から、私の足音に気が付いてからか……一際大きく聞こえた声に、
出番なしと肩をすくめて、再び私は歩みを変える。
私が一番気になってる存在……総司。
確か……総司の部屋は……。
すれ違う隊士たちに会釈をする余裕もなく、
私は総司の部屋を訪ねる。
「失礼します。岩倉です」
障子の前で中座して声をかけると、
なかから藤堂さんが姿を見せる。
「こんな時間にどうかしたの?」
「えっと、お寛ぎの所すいません。
えっと……おっ、沖田さんは?」
「帰ってないよ」
「すいません、失礼しました」
一礼して慌ててその部屋から飛び出す。
そして山南さんの位牌が置かれた部屋の前で、
「岩倉くん」っと呼び止められた。
位牌の前に座っていたのは近藤さん。
「近藤さん、何か御用でしょうか?」
「すまない。
山波君と山南さんの秘密を聞きながらも、
心のどこかで、そんな現実が訪れるわけないと思っていた」
「……多分、それが普通です。
突然、そんなことを言われて受け入れられる人なんていないと思います。
それでも……私は言わずには入れなかった……」
「……岩倉君……、私の未来はどうなる?」
蝋燭が炎だけが揺らめく暗がりで近藤さんの声だけが小さく響く。
近藤さんの未来……。
京都から敗走して流山へ。
そして……板宿宿で斬首される……。
そんなこと、今、この場で言えるはずがない。
「岩倉君……もういい……すまなかった。
総司を探しに行くんだろう。
これを見せてやってくれ」
そう言って、近藤さんが取り出した紙には、
流麗な筆遣いで、思い当たる一句が記されていた。
☆
春風に 吹きさそわれて 山桜
ちりてそ人に おしまるるかな
☆
伊東甲子太郎が山南さんを偲んだ弔歌と伝えられる一句。
確か……その後にも、
句は三首、詠まれていて四部構成と言われていた中の一つ。