ふと立ち止まって、その障子へと視線を向ける。


……皆、不器用なんだから……。



小さくため息を吐き出して、私は花桜の部屋へと再び歩みを進めた。



花桜の部屋には、先約がいるのがわかった。



『花桜ちゃん、思いっきり泣いたらええ』



部屋の中から、私の足音に気が付いてからか……一際大きく聞こえた声に、
出番なしと肩をすくめて、再び私は歩みを変える。



私が一番気になってる存在……総司。



確か……総司の部屋は……。


すれ違う隊士たちに会釈をする余裕もなく、
私は総司の部屋を訪ねる。



「失礼します。岩倉です」


障子の前で中座して声をかけると、
なかから藤堂さんが姿を見せる。


「こんな時間にどうかしたの?」

「えっと、お寛ぎの所すいません。
 えっと……おっ、沖田さんは?」

「帰ってないよ」

「すいません、失礼しました」


一礼して慌ててその部屋から飛び出す。



そして山南さんの位牌が置かれた部屋の前で、
「岩倉くん」っと呼び止められた。


位牌の前に座っていたのは近藤さん。



「近藤さん、何か御用でしょうか?」

「すまない。
 山波君と山南さんの秘密を聞きながらも、
 心のどこかで、そんな現実が訪れるわけないと思っていた」 

「……多分、それが普通です。
 突然、そんなことを言われて受け入れられる人なんていないと思います。

 それでも……私は言わずには入れなかった……」

「……岩倉君……、私の未来はどうなる?」



蝋燭が炎だけが揺らめく暗がりで近藤さんの声だけが小さく響く。


近藤さんの未来……。

京都から敗走して流山へ。
そして……板宿宿で斬首される……。


そんなこと、今、この場で言えるはずがない。



「岩倉君……もういい……すまなかった。

 総司を探しに行くんだろう。
 これを見せてやってくれ」



そう言って、近藤さんが取り出した紙には、
流麗な筆遣いで、思い当たる一句が記されていた。




春風に 吹きさそわれて 山桜
    ちりてそ人に おしまるるかな




伊東甲子太郎が山南さんを偲んだ弔歌と伝えられる一句。


確か……その後にも、
句は三首、詠まれていて四部構成と言われていた中の一つ。