ただそんな後ろ姿を、
私は何も声がかけられないまま見送った。





「花桜ちゃん」



そう言って、私の真正面に自分の体を移動させた
丞が名前を呼びながら、抱き寄せる。


丞から伝わる温もりが優しい。



「こんな体冷やして。
 女の子は冷やしたらあかんやろ」



そう言いながら、部屋の片隅に畳んであった
羽織を私の肩へと羽織らせてくれる。



山南さんから託された新選組の羽織。



そんな羽織を指先でギュッと掴んで握りしめる。





目を閉じるだけで、山南さんや明里さんと過ごした時間が
私の中に湧き上がってくる。





そんな思い出を脳内に張り巡らせる私の唇に、
ふいに重なる温もり。


丞のドアップの顔。




「えーっ」


一気に現実感が戻って絶叫した私に丞は笑いながら、
諭すように告げた。



「花桜ちゃん、
 今やからこそ花桜ちゃんがやりたいことがあるんちゃう?

 わいが何時でも叶えたる。
 花桜ちゃんの傍で」


そんな烝の声に背中を押されて、
私はゆっくりと障子をあけて空を見上げた。



雪だか雨だかが落ちてきそうな灰色の空。


だけどこの空の下で、
大切な人たちは繋がってる。




「丞、有難う。
 私、山南さんを追いかける」
 
「そやな。
 なら、わいは花桜ちゃんの護衛役やな。

 幸い副長からの許可はでとるさかいな」

「許可って?
 あの好きにしろって奴?」




そうやって告げると丞は笑いながら、
手に持ってきていた風呂敷を広げた。



「その前に花桜ちゃんはこっちやなー。

 えーっと、ふらつくのはこれやな」



そう言いながら、薬草らしきものを選んで取り出すと、
専用のアイテムにそれを投入して煎じていく。



「ほら、出来た。
 これでも飲んで、準備しとき。

 後で迎えに来るさかい」



煎じられた薬草は薬湯となって湯呑へと注がれて
私の前にポンっと残される。


見た目から、苦くて渋そうな色味をした
それをただ無言で見つめる。