「舞、お前も剣を握れ。

 目を背けずに今から起こる全てを刻み込め」




そう言うと晋兄は馬を走らせ始める。




人の波が押し寄せて打ち壊された会所のドア。


すでに晋兄の馬が辿りついた頃には、
切り合いが始まっていた。


放たれた弓矢が、頬をかすめる。


スーっと流れ落ちた血を拭って
周囲を見つめる。



「舞、後ろ」



そう言いながら晋兄は、馬の向きを変えて
弓矢を剣で叩き落とした。



「舞、目で見ようとするな。
 空気の振動を感じろ」


戦いながら実践を教えてくれる晋兄。


目を開けてちゃ、私は目に頼っちゃう。


だったら……今は目を閉じて、
晋兄の背中を預かる。


晋兄が駆る馬の振動を感じながら、
僅か向こう側で空気を切り裂く感覚。


反射的に、
その方角へ剣を向けて振り下ろす。



「舞、馬を降りるぞ」



そのまま晋兄は、私を抱き寄せて
一気に地面へと飛び降りる。


そのまま私の手を繋いで切り込んでいく。


目を閉じてたら歩けないから、
今度は目を開けながら、
向かってくる敵を見定めて、
私も刀を何度も振るう。


刀と刀が交わる音。


そして、一際目立つ銃声が周囲に響いていく。


「武器と食糧を確保」


目的が達成されたことを告げると、
何時の間にか戦意を喪失したらしい会所側の人たちは、
闘うことをやめる。



「お前たち、良くやった。
 舞、次の目的を果たすぞ」



荷車に乗せて運び出す武器と食糧。


そうやって次から次へと藩の主要拠点になってそうな場所を
襲撃しては必要なものを確保していく。

そんな繰り返しをしている中、
少しずつ、仲間たちも増え始めていた。



「舞、俺はこれより決死隊を募り
 三田尻の海運局を襲い船を奪う。

 船を失くして先の未来はない。 

 舞、お前はこいつらと共に俺たちの帰る場所を守ってくれ」

 
 
晋兄はそう言って私をこの中に残すと、
20人に満たない人たちを連れて一気に会所を飛び出していった。