晋兄にしがみつきながら、
馬の背に乗る私は背後から晋兄に話しかける。


「ねぇ、晋兄。
 怖くないの?」


そうやって紡いだ言葉に手綱を操る手が、
私の手に重なって声が聞こえる。


「怖くないヤツがいると思うか?」

「えっ?」

「怖いって事は自身の力量を知っているから怖い。

 バカはしねぇって事だ。

 だから舞、怖さを恐れちゃいけない。
 怖さを越えて、その先の奇跡を掴むんだ」



そう言って答えてくれる晋兄。


晋兄は何時だって私の中では英雄だよ。



「だったら……一人でも行った?」

「一人で行くことなんてねぇだろ。
 俺には舞も、こいつらもいる」

「でも……最初は皆反対してた。
 現に来てない人もいるよ」

「大丈夫だよ。
 時が来たら、自ずと集まってくる」


晋兄は噛みしめるように言葉を紡いだ。


今、晋兄たちと一緒に萩を目指してくれている人たちを
馬の上から見つめる。


石川小五郎さんが総督を務める遊撃隊。

そして伊藤俊輔。
後の伊藤博文さんが総督を務めた力士隊。

総勢80人。



「よぉーし。
 まず夜明けと共に新地会所を襲撃する」



そうやって告げた晋兄。



「一里行けば一里の忠を尽くし、
 二里行けば二里の義を表す。
 我らの忠義、今示さん。

 なぁに俺たちには女神が微笑んでる。

 舞、お前も何か言ってやれ」


そう言いながら、晋兄は私の方を見る。


えっ?
晋兄、それっていきなり無謀すぎない?
 

「えっと、今日こうやって晋兄を信じて集まってくれた人たちに
 本当に感謝してる。
 
 晋兄を信じてくれて有難う。

 人、一人の力は小さくて頼りないけど
 皆の力が沢山集まった時、国は動く。未来は拓くって信じてる。

 晋兄はそうやって、何時も遠い世界を見続けた人だから。
 今、出来る事をして未来を変えて行こう。

 だけど……一人一人の、その命は無駄にはしないで。
 必要のない命なんて何処にもないから。

 その命は、未来を生き抜くために大切な命だから」



そう……後悔だけはしたくない。


どんな歴史になっても、ただ同じ出来事が繰り返されるだけでも
知らされるのではなく、自分の足でその場所に居たい。

そう思ったから。



「無駄な命は一つもない。
 お前ら死ぬ気でやっても死ぬなよ」



晋兄の掛け声と共に、
力士隊と遊撃隊が動き出す。