「お待たせ。
瑠花、先に道場出てどうしたの?」
道場の前で丁寧にお辞儀をした後、
私の方に駆け寄ってくる花桜。
「ううん。
思い出したら、疎外感が強くなっちゃった。
どれだけこの世界に生きようと思っても、
私の記憶の中の史実が私をよそ者にしていくんだなって」
「ごめん……瑠花。
私が聞いたから」
花桜の言葉に、ゆっくりと首を振る。
「さっ、部屋に行く前にお茶出しだけ終わらせちゃおう。
そしたら二人の内緒話邪魔されることもないよね」
花桜はそう言うと炊事場の方へと向かった。
そんな花桜を追いかけるように私も向かう足取りは重い。
どうなっちゃうんだろう。
考えても仕方ないけど考えずにはいられない。
避けられない運命もあれば、避けれる運命もあるかも知れない。
鴨ちゃんの出来事は避けられなかった。
久坂玄瑞の運命も変えられなかった。
そしたら今回は……?
私が頭を悩ませて動かない間に、
花桜が二人分の仕事をテキパキとこなしていく。
干した洗濯物を取り込んで、
庭や道場で練習する隊士・部屋で仕事をしている人たちに
お茶を出して畳んだ洗濯物を置いてくる。
そして私の前へと反応を確かめるように、
わざと顔の前でひらひらと手を振る。
「家事、終わり。
後は、晩御飯だけだからそれまではゆっくりと話せる」
そう言うと、背中に隠していたお団子と一緒に
お茶をお盆にのせて自室へと戻った。
「あっ、このお団子ね。
お茶持って行ったときに近藤さんの部屋で貰ったんだ。
岩倉君と食べなさいってさ」
そう言うと花桜はお団子を手に取ってパクリと口に入れる。
近藤さんか……。
これから大変な事件が起こるかも知れないなんて思いもしないで、
こうやって和菓子を買ってくれたんだなーっとか思ってしまう。
近藤さんがくれたお団子は上品な甘さの餡子が乗っかっていて美味しかった。
「さっ、腹ごしらえも終わり。
聞かせてよ。
その思い出したって話」
花桜は一気に湯呑に入ったお茶を飲み干すと改まったように正座をして私の方に体を向けた。
「花桜、非行五箇条って知ってる?」
「何?
非行五箇条って。
非行って事は悪いことしてるわけで……悪いこと……」
そう言って花桜は少し考え事をするように俯く。
「近藤さんと土方さんの……って事はあれ?
芹沢さんの粛清……っとか?」
粛清っと言う言葉を発する時、花桜の中で私を気遣うような
戸惑いの表情を見せながら最後まで紡ぐ。