「花桜、顔をあげて涙を拭きなさい。
私は私が成すべきことをその一瞬一瞬にしただけですよ。
それを評価するのは私自身ではありません。
町の人や、花桜、そして私に関わった人々。
そして後の世の人の価値観なのかも知れません。
ただ一つ、言えることは必死なのですよ。
時代を変革させようとする力はとてつもなく大きくて強い濁流。
上に立つのも大変なのですよ。
だから彼らも道を謝る。
それを諌めるのにもまた相当の力が必要なのです。
花桜が気に病むようなことは何もありません。
さぁ、夕餉の続きを頂きましょう。
せっかくの夕餉が冷めてしまいますよ」
そう言うと、夕餉の続きを食べ始めた。
私も慌てて、焼き魚と漬物を頬張ってお茶を一気に流し込むと、
胸の前で両手をあわせて「ごちそうさまでした」っと声に出す。
「山南さん、後片付けをした後も少しお稽古して貰えますか?」
「構いませんよ。
今日は私ももう少し体を動かしたい気分ですから」
「有難うございます。
じゃ、またお寺の境内で」
二人分の食器を重ねて、慌ただしく山南さんの部屋を出ると
炊事場での洗い物を終えて、お寺の境内へと向かった。
月明かりの下、流れるような切っ先で
一連の型を振るい続ける山南さん。
そんな綺麗な剣さばきに見惚れてしまう。
実践が出来ないっていいながら、
今も彼はこんなに美しく剣を振るう。
「山南さん、遅くなりました。
お願いします」
わざと大きな声で告げて彼と対峙するように、
木刀の切っ先を彼へと向ける。
「行きますっ」
声を出して、何度も何度も打ち込む私の剣を
山南さんは何度も何度も受け止めながら、
確実に私の弱点を教えてくれる。
何度も何度も打ち込んで、息があがるようになっても、
山南さんは息一つ乱していない。
「今日は終わりにしましょう。
明日に痛みを残さないように、
ちゃんと冷やして沖影とともに私の部屋へ後で来なさい」
言われるままにお辞儀をして、
井戸水を組んで、手拭いでアイシング。
固くなったマメを指先でなぞる。