夕餉を作り終えると、私の分と山南さんの分。
二人分の食事を持って、山南さんの部屋へと向かう。



「山南さん。山波です。
 夕餉をお持ちしました」

「どうぞ」




山南さんの声を受けて、
私は襖を開けて、部屋の中へ入室する。


文机の前で書物を読み進めている山南さんは、
書物を少し閉じて、膳の前へと擦り寄る。



向かい合わせに座って箸を進めながら、
何度も何度も山南さんをチラチラと見つめる。


「山波くん、何かありましたか?」

山南さんはいつもと変わらぬ穏やかな話し方で
私を気遣いながら、湯呑を手にしてお茶を一口飲む。


「山南さん……ずっと考えてました。
 
 だけど……私は山南さんじゃないから、
 答え何てわからない。
 
 私は武士じゃないから、剣を振るうことが出来なくなった
 その気持ちを分かることは出来ないです」



絞り出すように告げた言葉に暖かい雫がポタポタと落ちる。

泣いちゃダメなのに……。



「確かに、この腕が完全に動けば今の私の居場所は
 今以上に存在したかも知れません。

 だけど……私にも思うところはあるのですよ」



そう言って、山南さんはまた湯呑に視線をうつしてお茶を飲んだ。



「私、土方さんに山南さんを監視して、
 何を思ってるのか報告しろって言われました。

 だけど、だからここに居るんじゃない。

 何を聞いても私は土方さんに話したりしない。
 私じゃダメですか?

 頼りなくて山南さんの抱える荷物を分ける相手にはなれませんか?」



私がまだ子供だから?

私がまだ未熟だから?




だから……心に抱える荷物も分けて貰えないのかも知れない。
そう思ったら、ますます苦しくなった。


「私……知ってます。

 禁門の変の時、山南さんが頑張ってくれてどれだけ心強かったか。

 屯所を守れたのも、焼け出された町の人の心を救えたのも
 山南さんが居たから……。

 山南さんはちゃんと新選組の総長です。

 あの新入りの、伊東がどれだけ幅をきかせようと
 町の人が認めてる新選組のお偉い人は、山南さんです。

 近藤さんでも土方さんでもない」




吐き出すように告げた言葉。




その言葉は、山南さんの心に響くことが出来ただろうか?

ただ私自身が楽になりたくて、
ただ一方的に告げた刃になってないだろうか。



だけど……そう思う心に嘘はつけない。