「山南さん、今日も練習付き合っていただけませんか?
 お時間があれば……ですけど……」



私が言葉に出来たのは、山南さん私とって必要な存在なのだと
伝えることしか出来なくて、ご先祖様だと告げていない私には
練習相手になって欲しいって形でしか、きっかけを作りだせない。


こうすることが山南さんに寄り添えることなのか
山南さんを精神的に追い詰めることなのか、
そんなことどれだけ考えても答え何て見つけられなかったけど、
山南さんが何かをやりたいって思うならただその手伝いをしたかった。



この穏やかな優しさの裏に真っ直ぐな強さを併せ持つこの人は、
私の大切なご先祖様。


本来はこんな形で交わるなんて出来なかった
その人の傍に今の私は居る。

私が今、この場所にいるって言うことが
意味のあることの様に思えるようになったから。



文明の利器もない。
生きるためには、人殺しも止むおえない。


心を殺しながら、必死に未来を切り開こうと、
自身が傷つきながらも前進してい巨大な力をこの身で体感しながら
その渦の中で身を投じることを決めた私。


何度も何度も覚悟をしたつもりでいたけど、
私の覚悟なんて、薄っぺらすぎてすぐに心が折れてしまったけど、
それでも、私を支えてくれる大切な存在に本当の意味で気づかされた。


誰かが自分のことを思って寄り添ってくれる。


ただそれだけが、どれだけ自分にとって
力をくれるのかを身を持って知った。


まだまだ未熟な私が誰かに何をしてあげれるなんて
思ってない。


ただ……山南さんの事を思って、
精一杯、寄り添って居たいだけ。



「わかりました。
 それでは山波君は先に支度をして寺の境内へ。
 私も準備をして行きます」

「有難うございます。
 じゃ、私は先に行ってますね」


極力明るい声で返事をして、一礼すると山南さんの部屋から出ていく。

慌ただしく自室に戻る途中「山波」っと聞きなれた声に呼び止められる。
立ち止まって、背筋を伸ばして振り返る。


「おいっ、騒々しい。
 少しは大人しく歩けないのか?」

「あっ、すいません。土方さん」


覗き込んだ先には、
伊東さんや近藤さんたちが集まって何かを話し合ってたみたいだった。

この場所に居たはずの……山南さんは、今はいない。



「すいませんでした。以後気をつけます。失礼しました」


半分逃げるように口早に告げると、
今度は出来る限り足音を立てずに慌てて部屋へと戻る。

イライラとしてる感情を発散させるように、素早く着替えをすませて
道場から木刀を借りて、お寺の携帯で素振りを始める。


こういう時に舞が居たら、いつも練習相手になって貰えたんだけどな。

真っ青な空を見上げながら舞を思う。
今頃、どうしてるかな?



「お待たせしました。山波君。
 さぁ、稽古を始めましょうか?」


準備を整えて木刀を手にした山南さんが姿を見せる。


「宜しくお願いします」


一礼して木刀と木刀を交差させると、
その後は打ち合いを始める。


一心不乱に打ち合う。


そんな時間が、私にとって凄く優しい時間になってた。


日が暮れ始める頃、お寺の境内に沖田さんと瑠花が姿を見せる。



「花桜、山南さん一息入れませんか?」


お茶と一緒に、お団子を用意してくれる瑠花。


「総司、岩倉君」

山南さんは手をとめて、私に休憩を促す。



久しぶりに四人で団子を囲んで休憩をした後、
山南さんは沖田さんに何かを頼んで、二人何処かに歩いていった。



「ごちそうさまでした。
 瑠花、有難う」

「ううん。
 どうせなら、皆で美味しく食べたいもの。
 でも本当、総司は美味しい甘味のお店知ってるんだ。

 何か私、太っちゃいそうだよ」


そんな風に柔らかく微笑む瑠花。


最初に、幕末に来た時には思いもしなかったほど
優しく笑うことが出来てる瑠花。


「さっ、夕餉の仕度しなきゃ」

「そうだね。
 さて、晩御飯作りも頑張ろう」



子供たちがかけまわるお寺の境内を後にして、
屯所内へと歩いて戻る。



道場から中庭から今も隊士たちが
鍛錬を続ける掛け声が木霊していた。



いつも隊士たちの掛け声を耳にする山南さんは
どんな気持ちになんだろう。



私の練習相手はしてくれる。
全く動かないと思ってた腕は少しは動くことがわかった。
だけどその腕では実践までは熟せない。


一人の武士として新選組の為に日々を歩み続けて来たその人が
その腕を振るうことすら出来なくなってしまった。


そのストレスはどれくらいなんだろう。


山南さんの本音が知りたいよ。