無心に打ち込む私の相手をした後、
『山波君、随分と重い打ち込みになってきましたね』
山南さんのその言葉で、私はゆっくりと彼にお辞儀を済ませた。
「有難うございました。
でも……びっくりしました。
腕、全く動かないとばかり思っていましたから」
「多少は動きますよ。
山波君の練習相手程度には、ですが神経が傷ついて、
痺れが残るこの手では実戦で振るうことは無理でしょう」
無理でしょうと言いながら、
山南さんの表情はやっぱり曇ってる。
無理なのだと、そう思い込ませようと言い聞かせているみたいに。
木刀を壁に立てかけて、
負傷した山南さんの腕に自らの両手を触れる。
そしてゆっくりと、
思うように山南さんの腕をマッサージしていく。
最初は戸惑っていた山南さんも、
私の指先の不思議な動きを食い入るように見つめる。
リンパの筋にしたがって、ゆっくりと滑らす指先。
指先を摘まんで刺激して、ぐるぐると優しくまわす。
手首から上へと、ゆっくりと指を滑らせていく。
「こうやって向こうの世界でも、やってたんです。
お祖父ちゃんに稽古をつけて貰った後に。
後は、私もやって貰ってた。
これを毎日続けて、山南さんの腕から痺れがとれたらいいですよね。
そしたら、そんな苦しそうな表情をせずにすむのに」
それが私の本音。
山南さんが苦しいことがあるなら、
ラクにして欲しい。
「山波君、有難うございます。
気持ちよかったですよ。
明里のところへ行きますが一緒にどうですか?」
「あっ、行きます。
私、明里さん渡したいもの会ったんです。
沢山は買えなかったけど、この間の御給金が出た時に
高麗人参買ったんです。
前に明里さんに山南さんが渡していたから」
「覚えてくれていたんですね。
高価なものを有難う。
私も寄り道して、高麗人参と私の薬を調達して
行きましょうか」
練習に使った木刀を所定の位置に戻すと、
そのまま山南さんと二人で出かける京の町。
明里さんが住む長屋までの道程。
薬を買ったり、和菓子をかったり、
ショッピングを楽しみながら。
その時、山南さんが高麗人参を何時もより一袋多めに
購入していたのを見逃さなかった。
「山南さん。
いつも二つなのに、
今日はどうして三つもですか?」
「あぁ、もう一つは総司の為ですよ」
「沖田さん?」
「彼も異変が続いていますから」
突然の言葉に、驚きの色が隠せない。