舞が旅だった日から数日が過ぎた。


京に居るのは私と花桜だけ。


それでも時間は止まることなんてなくて、
いつもと変わらない日常が過ぎていく。



「ねぇ、花桜。
 舞、何処まで行ったかな?

 天気は悪くないかな?」



屯所の庭。

井戸の傍で大量の洗濯物と格闘しながら
私は花桜に話しかける。


花桜もまた、洗濯板の上でゴシゴシと洗濯する手を少し止めて
眩しそうに青空を見上げた。



「そうだね……。
 舞、何処まで行ったかな?」


花桜は小さく呟いて、
また目の前の洗濯物退治を頑張り始める。


炊事、洗濯、屯所の掃除に、お茶出し。


日々の家事が、三人で分担してた時期は
どれだけラクだったのかを物語る。



「あぁ、終わったー腰が痛い。

 洗濯機の有難味が良く分かるよね。
 洗濯機開発した人、ホント凄いわ。

 瑠花、後は干すのお願いしてもいい?

 私、屯所の廊下を水拭きしてくるよ。
 今日、まだ出来てないんだ。

 道場にも顔出したいし、お寺にも顔出したいし。

 もう私が何人にも分身するとか出来たらいいのに」



花桜はそういいながら、桶に大量に注ぎ込んだ井戸水を抱えて
建物の方へと駆けて行った。


中腰で座りっぱなしだった私は、
ゆっくりと立ち上がって腰を伸ばす。


ホント、花桜じゃないけど腰が痛いわ。


両手を腰に添えて、ゆっくりと背中を反らしていく。



「あぁ~」っと声と共に脱力させて、
肩をグルグルと回すと、今度は洗濯ものを干す準備にかかる。


物干し竿でもある竹をまず、水で濡らした手ぬぐいで拭いてから、
大量の洗濯物を、干していく。



すると奥から廊下の水拭きをしてるはずの花桜が慌てて私の傍に駆け寄って来た。



「瑠花、どうしよう。
 私、なんかマズいもの聞いちゃったかな?

 掃除してたら、部屋の奥から聞えちゃったの。

 近藤さんの態度がどうとか?
 土方さんのやり方がどうとか?

 何人かいたような気もするんだけど私マズいなーって、
 抜き足差し足で慌てて帰ってきちゃった」


ひそひそ声で耳打ちするように告げる花桜は、
かなり焦ってる様子で今もキョロキョロと建物の方に視線を向けてる。



禁門の変の後、何が起きるか。



花桜に言われて記憶を遡ってみるものの
すぐに思い出せない。



えっと……池田屋や禁門の変ほど大きな出来事じゃないけど、
何かあったはずなんだけどな。


考え込む私を覗きこむ花桜。