「ねぇ、花桜。
多分、瑠花は一足先に現代に戻ったよ。
沖田さんを連れて」
「えっ?」
舞の言葉に驚いたけれど、
だけどだったら……今の状況が納得できる。
瑠花は現代に帰ってしまったからこの時代の人たちの中から、
岩倉瑠花の記憶は綺麗に消えてしまった。
そして沖田総司もまた現代へと旅立ってしまったから、
この時代には、別の沖田総司が存在してる。
多分、私たちがこの幕末にワープしたみたいに、
落雷に巻き込まれて、敬里が迷い込んだのかもしれない。
そしてたまたま、同じ時に現代に渡ってしまった沖田さんと入れ替わってしまったのなら……。
「そっか……。瑠花は帰れたんだね。良かった……」
瑠花は帰れたんだ……。
瑠花はこの空が繋がっている遠い未来である現実世界に、
帰っていったんだね。
最愛の沖田さんと一緒に。
私は瑠花みたいに丞と一緒にこの先も居続けることは出来るのかな?
ふと髪に飾られた丞に貰った簪に手を触れながら、
静かに空を見上げた。
「加賀」
ふいに斎藤さんが姿を見せて、舞の傍へと顔を出す。
そんな二人を見届けて、私はわざと声を出した。
「さてっ、斎藤さんが来てくれたならお邪魔虫はどこかに行こうかな」
そう……舞のことは、斎藤さんが来たのなら任しておけばいい。
問題は敬里。
部屋を後にして近藤さんたちが生活する方へと移動する。
いつもみたいに朝餉を作って支度をすると、
隊士たちと一緒に敬里が姿を見せた。
「総司、少しいいか。話がある」
土方さんが敬里を呼び止めて、何処かへ連れて行くのがわかった。
手早く隊士たちの食事を並べて私は近藤さんの食事を運んでいますっとも言わんばかりに用意して、
普段はなかなか近づかない幹部の部屋の方へと歩いていく。
「頼む。
総司かっちゃんが大坂で療養することになった。
無事に大坂まで護衛してくれ」
そう言って土方さんが敬里に頼み込んでいるらしい声が障子越しに聞こえた。
……頑張ってね。敬里。
誰も呼ぶことのない、もう一つの名前を声に出さないまま呟くと、
私は近藤さんの部屋へと向かった。



