瑠花の記憶が、存在が皆の中から消えた。
もしかしたら現代に戻ったの?


核心とまではいかないけど、漠然と連想出来た現実。




なら沖田さんは?


瑠花と一緒に出掛けた沖田さん。
沖田さんの心の中からも、瑠花は消えてしまったの?


沖田さんは、そこにいるって土方さんはさっき言った。

だったら沖田さんに会えば……。



私は指さされた方へと視線を向けて庭へと向かう。





「沖田先生、お体は大事ありませんか?
 お休みにならなくてよろしいのですか?」



隊士たちに気遣われるように囲まれて、
その中心で立ち尽くしていたのは見慣れた存在だった。




敬里【としざと】……、
なんでアンタが沖田さんって呼ばれてるのよっ!!




目の前に現れた突然の人物に消えてしまった沖田さんの存在。
私はスタスタと囲まれてる敬里の方へと向かった。




「お帰りなさい。
 沖田さん……瑠花は?」


わざと隊士たちに呼ばれている名前で、
声をかけると敬里は『花桜』っと私の名前を呟いた。



アイツは、やっぱり敬里。


核心を得た私は敬里の腕をスっと掴んで、
隊士たちの輪から連れ出すと、人気【ひとけ】がない暗がりへと連れて行った。




「花桜……」

「敬里、アンタ何やってんのよ。
 こんなところで」

「花桜、お前こそ今まで何やってんだよ。
 それに俺が沖田だなんて、なんでそんなこと言うんだよ。

 お前まで……」



敬里は戸惑っているようで石垣に体をもたらせながら、
私を見つめた。



「ここは幕末の京都。
 瑠花と離れちゃったから今が何かはわかんないけど、
 油小路の変ってのがこの間あって今、二条城からの帰りに近藤さんが撃たれたから、
 多分、もうすぐ何処かで戊辰戦争って言うのが始まるんだと思う」

「瑠花?
 アイツもここにいるのかよ」

「瑠花も舞も……三人で、気が付いたら幕末に居たのよ。
 あのインターハイの後に。

 それから三人で、必死にこの幕末の時代を生き抜いてた」


そう言うと敬里は驚いたように私を見つめて、
自分の体へと視線を移した。




「お前も……花桜も、俺が沖田と呼ばれたみたいに誰かの名前で呼ばれたのか?」



敬里のその問いかけに、私は首を横に振った。