今頃、あの二人はどうしてるだろう?
近藤さんは肩を負傷せずに済んだのかな?
そんな思いが打ち消されたのは舞の熱を下げるために使っていた桶の水を交換しに、
部屋の外に出た時だった。
屯所内には灯りがともされて隊士たちが建物に視線を向けていた。
庭に乗り捨てられた馬が、主をないままに突っ立ている。
えっ?
まさか、近藤さんが歴史通り撃たれてしまってるの?
思わず視線の先へ足を急がせる。
「近藤さん」
慌てて板に乗せられて建物の中へと搬送されている、
その人の名を呼んで行く手を阻む。
「おいっ、山波。てめぇ、なにしてやがる。
ほらっ、とっととどけ。
かっちゃんを奥に運んでくれ」
そう言った土方さんに立ちはだかる様に、
私は近藤さんに視線を落として問いかける。
「近藤さん、近藤さんのところに沖田さんと瑠花が行ったの。
二人には会わなかった?」
そう言うと板の上で、銃弾に苦痛を歪ませながら「総司」っと視線を向ける。
「山波、総司ならあそこにいるだろう。
それに瑠花だと?ここにいる女は、お前と加賀だけだろうが。
そんなふざけた用件で、かっちゃんの治療をさまたげるな。
おいっ、とっとと部屋へ運び込め」
何時にもましてピリピリとした空気を醸し出した土方さんが、
怒鳴る様に隊士たちに指示を出して、近藤さんは部屋の中へと運び込まれていった。
運び込まれていく近藤さんの姿を、
心配そうに見守る隊士たちと、その後ろに付き従う様に歩いていく幹部たちの姿。
えっ?
どういうこと……。
瑠花のことを誰も覚えていない。
あんなにも、さっきまで一緒に居たのに……。
戸惑う様に周囲を見渡しても、
瑠花のことを気に掛ける存在は私以外には感じられなかった。
不思議な現象。
一瞬にして、その人の存在が消えてしまうこと。
それは、昔……現代に戻った時に私が体験した、
あの時間を思い起こさせた。
私だけが現代へと戻り、その辿り着いた現代には、瑠花と舞の存在が消えてしまっていた。