「山波、山波は居るか?」


突然、斎藤さんの声が聞こえて私は慌てて部屋の襖を開ける。


「はいっ」

「加賀を頼む」



そう言って私に差し出す斎藤さんの腕の中の舞は、
ぐったりと力なく抱かれている。

そして二人とも、ずぶ濡れのままだった。



「あっ、はいっ。舞っ」


頬をペシペシと軽く叩いてみても起きる様子がない。


「舞」


少し体に力を入れて舞を抱き上げようとした時、
ひょいっと姿を見せた烝は、舞を軽く抱き上げて部屋の中へと連れて行ってくれる。



「すまない。山崎君」


斎藤さんはそれだけを告げて、着替えにでも行ったのだろうか?
私たちの前から姿を消した。



「花桜ちゃん、凄い熱出てるわ。舞ちゃん。
 布団敷いてくれるか?。

 後、何か着替えやな」



丞に言われるままに私は舞の布団を敷いて、
着替えを手渡すと、桶に水を汲みに井戸へと向かう。



先ほどまで激しく降り続いていた雷雨は、
今はあがって冬の割にはまだ湿度のある空気を感じる。


草履を足に引っ掛けて慌てて庭の井戸へと向かうと手慣れた手つきで桶に水を汲んで手ぬぐいと共に、
部屋へと戻った。


そこにはすでに丞の手によって着物を脱がされた舞が、
出しておいた別の着物に袖を通した状態で布団に横たわっている。


季節特有の冷たい隙間風が入っていた部屋は、
火桶が持ち込まれて暖をとれるようになっていた。



布団の中で体を震わせながら、何度も何度も『ごめんなさい』と呟き続ける舞。
舞の額に冷たく濡らした手ぬぐいを何度も交換しながら私は傍に居続ける。



すると何かの気配を察知したように、丞は私に向き直る。



「舞ちゃんに、この薬飲ませたって。
 この雨にうたれて体調崩したんやろ。

 また様子見に来るわ」


そう言って私に先ほど煎じていた薬を包装して手渡すと、
足音もなく、すーっと消えるように退室した。



私は舞の傍に付き添いながら、沖田さんと瑠花のことを思う。