「そっか……。瑠花は帰れたんだね。良かった……」
そう言って、花桜は黙って空を見上げた。
「加賀」
ふいに斎藤さんが姿を見せて私の傍へと顔を出す。
「さてっ、斎藤さんが来てくれたならお邪魔虫はどこかに行こうかな」
わざと茶化すように花桜はそう言うと、
何か用事を思い出したかのように席を外してくれる。
「有難うございます……運んでくれたんですよね」
「構わない」
「加賀、何があった?
総司と岩倉の姿が近藤さんの別邸から消えた。
今、総司としてこの場に居るのは、オレの見知らぬ顔だ。
だが……他の隊士たちは、そいつを総司として認識しているようだ。
同時に、岩倉の存在を記憶する者がいない。
何があった?」
斎藤さんが告げた言葉は、私に衝撃を与えた。
「斎藤さん……多分、貴方も晋兄と一緒で私の秘密を知る、数少ない存在なのかな?」
そんな言葉を口にすると、
斎藤さんは「加賀の秘密は知らない。だがオレの中には、お前とは別の舞が存在する」っと小さく告げた。
「私は加賀舞。
そして斎藤さんが懇意にしていた舞は、嘉賀舞【かがまい】。
同じ韻【いん】を踏んでいるけど、漢字が違うの。
私は昔の嘉賀舞の記憶を持つ存在。
そしてあの時、嘉賀舞が遣り残した約束を叶えるために、この場所に花桜と瑠花を巻き込んで来た存在」
思わぬ形のカミングアウト。
だけど斎藤さんは驚いた素振り一つ、見せることはなかった。
「そうか。
オレはお前と良く似た存在を知っている。
だがそれは、オレが知る舞とは違った。
オレ自身の知る舞とは違うと知りながら、舞と重なる部分を多く併せ持つ、
加賀の存在が気にかかっていた。
故に加賀を監視するような真似をした。
許せ」
斎藤さんの言葉に私はゆっくりと首を振る。
自分が抱え続ける秘密を、こうやって共有してくれる存在が一人でもいることが、
どれほど楽になることなのか、その一人の存在の大きさをこんなにも実感する。