「総司?」

「瑠花、すいません。
 今晩、一晩だけ心を整頓させてください」


それだけ告げると、その後は襖越しに何を話しかけても、閉ざされた声が切り返されることはなかった。


翌朝、お日様が昇ると同時に自分の部屋から総司の部屋へと駆け出して、
奥の部屋に声をかける。

奥からは総司の声は聞こえなくて、代わりに咳き込みながら魘されるような声が漏れ聞こえる。


「総司、入るわよ」


中から返事もないままに勢いよく襖を開けると、
布団にも入らずに、愛刀の傍で倒れてる総司の姿が視界に入った。

総司の傍には、鞘から解き放たれたまま光を放つ刀が転がっている。


ったく、もう何やってたのよ。


「ほらっ、総司。わかる?」

そう言いながら触れた総司の体は熱のせいか、額は熱いのに体は汗が冷却されて冷えてしまってた。

「お孝さん、お孝さん、手伝って」

大声で叫ぶと、私の声に慌てて寝間着姿のままでお孝さんが姿を見せる。


「沖田はん」

「ごめん。
 総司を布団に運びたいの?
 手伝って」

足側と頭側。
二手に分かれて、総司を抱えるとすぐに敷布団の上へと寝かせる。


「お湯と手ぬぐい、持ってきます」

「後、部屋を暖めて欲しいの」


現代だったら、すぐに服を着替えさせてって出来るのに、
今、ここではどうしていいか思いつかない。

とりあえずお湯に手ぬぐいを浸して、総司の体の汗を拭きとっていると、
お孝さんが火桶を運んできてくれた。


「汗は拭き終わったから後は、今度はお水ね」


私が言うと、またお孝さんがすぐに動いて桶に水を運んでくれる。


今度は大きな血管が通っている場所に、次から次へと水で浸した手ぬぐいをあてて、
看病を繰り返した。


総司が倒れて眠っている間に、王政復古の大号令が発せられた。

征夷大将軍の職が廃止となり江戸幕府は廃止され、それに伴って京都の治安維持を担当した京都守護職、
朝廷や西国大名の監視を行った京都所司代も廃止となった。

700年ぶりに天皇を中心とする統一国家が復活した。


ほどなくして伏見奉行所へと屯所を移しを余儀なくされた新選組の引っ越しが終わった花桜と舞が、
久しぶりに、別邸へと顔を出した。


総司の熱もやっと下がり、部屋の中では動ける程度に回復した。


私たち三人と総司の四人だけの部屋で、
総司は私たちをまっすぐに見て、覚悟を決めたように切り出した。


「ずっとズルはしてはいけないと言い聞かせていました。
 だけど、言わずにはいられない。

 瑠花、山波、加賀、教えてください。
 僕は……いえ、新選組の行く末……違う。

 僕のことも、新選組のことも今はいいのです。
 近藤さんは、土方さんの未来はどうなりますか?

 僕は……僕が後悔しないように生きていきたい。
 この体を恨むような、先日のような生き方ではなく、
 僕自身が誇りをもって生きていけるようになりたいのです」


総司の言葉は鋭く私に刺さってくる。
花桜と舞は、お互い息を飲みながらまっすぐに私の視線を向けた。


「瑠花っ、山波、加賀。
 教えてください」


総司の声は、一度目の願う際の柔らかさに似た声音から、
二度目は逃げることを許さないと強制力にも似た力強さが秘められた声へと変わる。