「花桜ちゃん、帰りも顔出すよって、勝手に帰ったらあかんで」

そう言うと私が家の中に入ったのを見届けて、その気配を消した。


「こんにちは。
 山波です」

「はーい」


そう言って姿を見せてくれたのは、お孝【おこう】さんと呼ばれている存在だった。


「こんにちは。お孝さん、お邪魔します」

「沖田さんと岩倉さんは、奥の部屋におりますよってどうぞ」


別邸の主の許可を貰って、私はまっすぐに奥の部屋へと向かった。


「こんにちは。沖田さん、瑠花」

「あぁ、花桜来てくれたんだ」


襖の前で声をかけたとたんに、瑠花が気が付いて私を迎え入れてくれる。
沖田さんは、今日は体調がいいのか体を起こして刀の手入れをしているみたいだった。


「お邪魔します。沖田さん」

「こんにちは」

「お加減はいいがですか?」

「今日は調子がいいよ」

「そうねー、今日は熱も下がってて調子いいのよね」

「瑠花、少し山波と買い物に行ってきてくれないかな。
 お団子が食べたくなっちゃった」



突然、そう言った沖田さんの声に瑠花は了承するように「花桜、少し買い物に行こう」っと私を外へと連れだした。




瑠花と二人、今日の町を歩いていると、最近よく見られるようになった不思議な光景が広がっていく。


町の人々が、『ええじゃないか。ええじゃないか』っと口ずさみながら、
賑やかに群がって何処かに向かっていく。


「ねぇ、これって?」

「俗にいう、お伊勢参りってやつじゃない?
 現代みたいに、電車やバスツアーでってわけにはいかないからさ。

 ええじゃないかって言いながら、お伊勢参りをすることが増えたって言うのは、
 なにかの本で見た気がするなー」


そう言って瑠花は、目の前の行列を見送りながら教えてくれた。
そんな行列の中で見かけた、びっくりする人の姿。


「ねぇ、瑠花。あれって」


指さした方向に視線でとらえたのは、あの日わかれて以来、再開することがなかった舞らしき姿。


髪は伸びて長くなってしまったけど、
見慣れない旅姿をしてるけど、舞のような気がする。



「あっ、花桜。ホント、舞だ。舞が帰ってきた」


二人、その姿に感激してお互いの肩を叩きあっていると、
行列から抜け出すように、舞は列を離れた。


「舞、お帰り」

「花桜、瑠花、ただいま」


久しぶりに再会した私たち。