それでも一時間でも晋兄の傍に居て、ハルと一緒に居られる空間は私にとっては宝物になった。



だけど二週間後、晋兄の体調は急変する。


臨終の際の晋兄が最期に私に伝えた言葉。



『全てが終わったら、泣き虫舞を俺と義助で迎えに行ってやる。
 だから今は行けっ!!

 加賀舞っ!! その手に運命を掴みとれ』



声を絞り出すようにして告げた晋兄は、その後、順番に雅姉様たちにも最期の言葉を残して、
その生涯に幕を閉じた。







晋兄の遺言とも言える最期の言葉は、
今の私を照らし続けてくれる。





晋兄との最期の別れを終えて暫くは、
花桜や瑠花たちのいる京にどんな顔をして帰ればいいかわからなくて、
逃げるようにこの下関で立ち止まって過ごしていた。


おうのさんは尼さんになって、今も晋兄の傍でお墓さんをお世話し続けてくれていた。


雅姉さまは尼になることはなく、
今もお子さんの為に、必死に今出来る道を歩き始めてる。



ずっとくすぶり続けてた私が、京に戻りたいと思ったのは、
伊勢神宮のお札がまかれて、ヨイジャナイカ・エイジャナイカ・エイジャナカトっと言う、
そんな掛け声があちらこちらから聞かれるようになった頃。



世の中の行く末に不安を感じ出した人たちが、
不安をかき消すために、神頼みに、伊勢詣でへと賑やかに渦となって向かい始めた頃。




晋兄が眠る墓前に、そっと手を合わせて私は、その波に乗る様に京へと戻った。





その京の町で、ずっと会いたかった親友と再会する。





「舞、お帰り」

「花桜、瑠花、ただいま」





二人の親友は、変わらぬ優しさで私を迎え入れてくれた。






ねぇ……もう一人の舞ちゃん?


舞ちゃんは、私に何をさせたいの?

晋兄の言っていたことが仮に本当で、
貴女に、やり残したことがあって私が、二人を巻き込んでこの世界に来てしまったというのなら、
私はこれからどうしていけばいいの?






私は京に戻って、
これから立ち向かう未来の行く末に覚悟を決めるように、
大空を見上げた。