その数日後、全ての隊士たちに集まるように指示をした幹部たちは、
伊東甲子太郎たちが御陵衛士として新選組を離れることを告げた。

多分、史実通りだと西本願寺の屯所を出た伊東甲子太郎たちは、
高台寺の月真院にて生活を始めているはず。



伊東甲子太郎たちが脱退した二日後、
新選組は会津公お預かりの立場から、幕府直参へと変化を遂げた。


それを知ったのは、療養中の総司の何気ない一言だった。




「瑠花、今日近藤さんから聞いたんですよ。
 こんな僕が見廻組格70俵3人扶持だそうです。

 僕も出世したもんですね」


そんな風に呟いた。


「見廻組格って、幕府直参に?」

「はい。
 新選組にとっては念願でしたからね。
 京に来て五年間は、会津公お預かりの不安定な立場でしたから。

 でも瑠花は未来から来た人だ。
 こうなる未来はわかってたんですよね。

 わかってて、何も言わなかったんですよね」


総司は布団から体を起こして愛刀へと手を伸ばすと、
鞘からそっと解き放って、その刃に視線を向ける。


「近藤さんと土方さんは?」


「近藤さんは見廻組与頭(くみがしら)格として三百俵の旗本、
土方さんは見廻組肝煎(きもいり)格として七十俵五人扶持です。

 近藤さんが旗本ですよ。
 将軍様にもお目見えできるんですよ」


そう言って、嬉しそうに微笑んだ。



喜んでる総司には悪いけど私は納得できないよ。



「ねぇ?どうして?

 どうして新選組も、近藤さんもこんなにバカなの?
 先の戦いで、幕府は負けたじゃない?

 ただの負けじゃない。
 ぼろ負けしたんだよ。

 そんな幕府に今更、何が残ってる?」



本当は総司に言ってもどうにもならないのに、
言わずにはいれない。

コントロールできない涙が、じんわりと滲み出す。



総司は突然泣き出した私を見るとじっと見つけていた刀を鞘に戻して、
刀を置くとその指先で私の涙をぬぐい取った。



「瑠花、泣かないでください。

 確かに近藤さんが承諾した選択は、
 間違いだったかもしれません。

 今の幕府は、幕府の権威も落ちてしまった沈みゆく船のようなものです。
 近藤さんも土方さんも、百も承知なんですよ。

 近藤さんに僕も同じことを問いました。
 近藤さんの返事はこうでした。


 『総司、滅びゆく徳川に殉ずる。
  それでよいではないか? 

  誰も彼もが利に走り旧主を裏切り旧恩を忘れていく中、
  最後まで徳川に忠義を貫いた男たちがいたことを、
  薩長の連中の記憶に、山波君、岩倉君、加賀君たちみたいな、
  後世の人たちの記憶に刻み付けてやろうではないか?』って」


そう言って、総司は近藤さんの物真似をしながら私に話しかけてくれた。


負ける未来がそこに近づいてきて来ることを知りながら、
その道を選ぶことしか出来ない不器用な漢たちの集まり。

そんな風にも感じられた。


馬鹿じゃない。
新選組なんて、鴨ちゃんを筆頭に馬鹿な漢たちの集まりじゃない。