「確か……尊王攘夷」

そう、尊王攘夷。

天皇を崇拝し神国日本を守るために外国人を殺害する。
テロも辞さない、過激で、原理主義的な思想。


伊東さんはその為に、新選組に入ったって言われてる。

そして確か、新選組も最初は尊王攘夷を旗印に結成されたはず……。


そこで私の中で一つの矛盾が生じてくる。


最近の新選組は、幕府・幕府……。


「ねぇ、瑠花。
 最近の近藤さんは、幕府を立ててる気がするよね」

「そう。
 幕府の為に働いてたからかな。
 今の新選組は佐幕派。

 近藤さんは、幕府を補佐する立場になってる。

 だから溝が深まってくの。
 この頃の幕府は開国に向けて動き出してるもの。

 開国に向けて動き出してる、幕府を補佐する新選組が、
 外国人を殺すなんてご法度でしょ」



瑠花のかみ砕いた説明は、私にもわかりやすい。




「もう……どうにもならないのかな?」



小さく呟くと、瑠花はただ黙ったまま私の体を抱きしめた。








その数日後、隊士たちに集まるように指示した土方さん。

近藤に続いて姿を見せる、
伊東甲子太郎さんを先頭にした何人かの隊士の人たち。




「皆に話がある。

 この度、伊東君他数名が孝明天皇の陵をお守りするため、
 御陵衛士という役職につく。
 
 その為に新選組を脱退することとなった。
 では伊東君に挨拶をしてもらう」


そう言うと伊東さんは一緒に脱退する隊士たちにも整列するように合図を送って、
ゆっくりと口を開く。



「短い間でしたが、近藤さんをはじめ皆様には大変お世話になりました」


そう言って深々と伊東さんがお辞儀をすると、
同じく脱退を決めた隊士たちがそれに続くようにお辞儀していく。




『伊東先生の講義が聞けなくなるなんて残念です』
『藤堂先生や斎藤先生も一緒に行かれるんですね』っと脱退を惜しむ隊士たちの声も漏れていく。





それぞれが別れを惜しんでいる片隅で、
土方さんのするどい眼光だけが光っているように思えた。




御陵衛士として新選組と別れたその後の未来が、
あんなにも悲惨な結末を辿るなんて、この時の隊士たちには誰も知らない未来の形だった。