「山波君、君も大砲を覚えますか?
 必要でしたら、私が懇切丁寧にお教えしますよ」


そうやって、指導役の武田さんが私を呼び止める。



「すいません。
 沖田さんからの課題がありますので、私は向こうで練習します」



そう切り返して境内の片隅で一人、練習を続けた。



その日の夕食は、近くの山で獲れた猪を使った『しし鍋』。


近隣の女の人たちが、屯所近くに来ては新選組の隊士相手に販売していく猪やお酒。

最初は驚きしかなかった猪の解体も、流石に見慣れてきた。

自分でやれって言われると、やっぱりまだ出来そうにないけど、
現代だと薄れてしまっている命を頂いている感覚が強くなる。


しし鍋での宴会の準備が終わった時、
近藤さんが気難しい表情で皆の前へ姿を見せた。


「先ほど会津公からお呼び出しがあった。
 今後、屯所内でのしし鍋・大砲訓練は禁止といたす。

 西本願寺の門主より会津公へ苦情が入ったようだ。

 御所にほど近いところで大砲は穏やかではない故に、
 やめるようにと。

 しし鍋にしても、寺は殺生を好まない」


そう隊士たちの前で宣言した近藤さんの言葉に周囲の隊士たちから不満の声が上がる。


禁止になった故に最後のしし鍋の宴になったしまった夕餉を、
早々に終えて、隊士たちはそれぞれの持ち場へと戻っていった。




不満が声があちらこちらから上がっていく。


隊士たちによると、このところ隊士たちには厳しく禁じていながら、
近藤さんの花街通いが隊士たちの噂になっていた。


なんだかピリピリとした不穏な空気は、日に日に広まっていく。




夜、瑠花と合流して就寝準備をしながら私は今日あったことを伝えた。



「そっかぁー。
 隊士たちの不満も募っていくよね。

 朝、話をしてた御陵衛士なんだけど……花桜が覚えてるのは?」

「えっ、伊東甲子太郎が藤堂さんを連れて新選組を離脱して、
 斎藤さんがスパイで潜り込むじゃなかった?

 今日、斎藤さんに朝餉を持って行ったときに、チラっとそんなこと聞いたよ。
 斎藤さんも出ていくみたいなこと。

 あっ、後は……舞の情報とか」

「えっ?舞の?」

「そうそう、毎晩色街に通っては長州の情報に詳しい人から、
 舞が戦女神って呼ばれて戦ってるって教えられたって」


戦女神のところでは、私がびっくりしたみたいに瑠花も驚いた表情を見せてた。


「そうだよね。

 やっぱり舞の戦女神って想像できないよね。
 だけど元気だってわかって嬉しいよね」


「私たちも負けられないね。
 ちゃんと頑張らなきゃ。

 私たちが新選組の為に何ができるのかな?」



そう、いつの間にか現代に帰りたいっていう思いよりも、
この時代で新選組の為に何ができるのかを考えるようになってた思考。


「なら花桜に質問。
 新選組を離脱する伊東さんは、どんな思想を持ってる人だった?」


瑠花の質問に私は現代での現況を必死に思い出す。