「私は小さいから、パパを愛していました」

遂に出た言葉に思わずホッとした。
意を決した言葉に思わず涙した。

それだけ美紀は沙耶に遠慮していたのだった。

それは珠希の心でもあった。

珠希は正樹のサポートをするためにこの家を出たことを……
結果的に沙耶に実家を押し付けてしまったことを悩んでいたのだった。




 (――やっと言えた)
美紀は安堵の胸を撫で下ろす。


「分かっていたわ」
そう答える沙耶。

それが余りにも意外で、美紀は沙耶を見つめた。




 「正直な話、何故こんなにパパのことが好きなのか分からなかった」
美紀はそう言いながら、結城智恵と真吾の写真を沙耶の前に置いた。


「この二人が美紀ちゃんのご両親?」
沙耶の質問に頷いた美紀。


「母の誘拐事件とか、諸々を母の育った施設を訪ね報告したんです。そしたら母の日記を渡されました」


美紀はバックの中から大学ノートを取り出した。


「見て泣きました。母はパパを好きだったんです。初恋だったんです。母も」

美紀は日記を胸に抱いて、泣いていた。


「言えなかったんです。孤児だったから。だから産まれた場所はコインロッカー。そう言って。きっと自分を戒めたんだと思います」

声を詰まらせた美紀。
優しく肩に手を置く沙耶。




 「私解ったんです! 私の中に母が生きていると。憑依していると」
突然、余りにも唐突に美紀が言い出す。


「憑依!?」

沙耶は驚いて、思わず手を引っ込めた。


「それ以外考えられない。きっと産まれたばかりの私のことが心配で」


「解るわ」
沙耶は頷きながら優しく美紀の体をバグした。

憑依だの何だのと怖がっている場合ではなかった。
沙耶は美紀を本当は抱き締めてやりたかったのだ。


「だけど、それだけじゃない。プロレスラーのくせに優し過ぎるパパだったから、こんなに好きになったんです」




 「美紀ちゃん。もしかしたら貴女、お姉さんが亡くなった後に、正樹さんのことをもっと好きになっていない?」

沙耶の質問に美紀は戸惑いながら頷いた。


それは美紀自身にも解らなかった。

何故こんなにも正樹が好きなのか?

何故大や兄弟では満たされないのか?


その答えは、沙耶が知っていた。

美紀が産みの母が憑依していると言ったので、やっと理解出来たことだった。