又バレンタインデーがやって来る。


五年前の珠希の手解きを思い出しながら、美紀はキッチンにいた。

脳裏に浮かんだのは、あの日の三人の笑顔だった。

秀樹、直樹、パパの大喜びした顔だった。


一人一人の仕草を思い出してはドキンとする。
でもパパだけは違っていた。


珠希の前でパパに手作りチョコを渡した時、美紀の心臓は大きくはね上がったのだ。

それは、美紀がパパへの愛をはっきり意識した瞬間だった。

それを今……
今更ながらに確認した美紀だった。


小さい頃から大好きだったパパ。
そのパパを美紀は愛していると悟ったのだ。

あのバレンタインの日に。

そして今も尚。




 あれは珠希が亡くなる前年の秋の国民体育大会。


試合の会場に向かう前の珠希と正樹のキスをはっきりと思い出したのだ。

美紀が見ているとも知らずに……
それに応じた正樹。


珠希の貪るような激しいキスを目の当たりにした美紀は衝撃を受けて心を閉ざした。
正樹の恋しい気持ちを封印せざるを得なかったのだ。


でも、あのバレンタインの日に又再び燃え上がらせてしまったのだった。


それは結果として珠希と過ごした最後のバレンタインデーになった日だった。


美紀は既に、正樹を愛し初めていたのだった。

たとえ、それがどんなに苦しくても美紀は耐えなくてはならなかったのだった。




 (――ごめんなさい。

――私、本当にパパが好きなの。

――どうしてだか判らないけど、パパが好きで好きで堪らないの)

美紀は頭を振りながら、誤った。

それでも、二人の笑顔は消えなかった。


何故……、大や秀樹や直樹では満たされないのか解らない。


何故……、パパが大好きなのか判らない。

美紀は未だに悩んでいたのだ。




 美紀が誰を選ぶのか?
高校では、この話題で持ちきりだった。

もう既に全員が、三つ子が本当は双子で美紀が養女だったことを知っていた。

だから、この三人の中で恋人は決まると思っていたのだ。


誰も美紀の本心は知らない。
美紀が育ての親である正樹を愛している事実を知らなかったのだ。

だから、無責任に騒いでいただけなのだ。


全て面白半分……
一年生のアンケートでミス松宮高校に選ばれた美紀を羨ましく思っていたことは事実だったのだが……