珠希直伝の料理がローテーブルに並ぶ。

襖も開け放たれていた。

珠希の仏間であるこの部屋は、夫婦が年老いた時の寝室用だった。
珠希は其処まで考えていたのだった。
まさか自分の居処になるなんて思いもよらなかったはずなのだ。


珠希も一緒に輪の中に入ってほしいと願って美紀は戸を外したのだった。


陰膳も何時ものように用意した。


「これ何?」
何も知らない大が聞く。


「ママの分だよ」
秀樹と直樹がハモる。


「流石双子だ」
大はそう言った後寡黙になった。


(――原因はこれか?)
そう思った。


大は、五年前に亡くなった珠希のことを詳しくは知らない。
でも美紀の心に魂に深い傷を負わせているのではないかと感じていたのだ。




 「可哀想だとは思わないのか?」
大は二人の部屋に入ってすぐに切り出した。


「俺達の母親代わりだって言うことか?」
秀樹の質問に大はただ頷いた。
でも本当の意味は違っていた。


「美紀は知っているんだと思うんだ」

秀樹はそう前置きしながら、珠希のラケットが美紀の手元に残った経緯を語り始めた。


「そうか。親父さんは、それほど奥さんを愛していたのか」
大は辛そうに呟いた。

美紀がどんなに正樹を愛してても、報われるはずがない。

そう感じだのだった。


でも秀樹には、その言葉は聞こえなかった。