こんなにも近くに美紀が居る。
それだけで大は舞い上がっていた。


「美紀ちゃん、やっぱり好きだ! 俺と付き合ってくれ!」

突然交際を申し込んだ大。
美紀の前に右手を差し出した。


「ちょっと待った!」
慌てて隣りに駆けつける秀樹と直樹。


三人の手が、美紀の前にある。

美紀はただ戸惑っていた。


「ちょっ、ちょっとあんた達!?」

沙耶が美紀の前に立ちふさがった。




 「ねえ、あんた達。美紀ちゃんが誰を好きなのか知ってて言ってる訳?」

言ってしまってから沙耶は慌てて口をふさいだ。

「あれ私……? 何ていう事を」
沙耶はそっと正樹の顔を伺った。


でも、正樹よりもっと困った人のいることに沙耶は気付いていなかった。


それは大だった。
大は沙耶の言った意味が理解出来なくてキョトンとしていた。


実は大は美紀が正樹を好きなことに気付いていなかったのだ。




 正樹は正樹で、三人の告白を目の当たりにしておどおどしていた。

美紀が心をとらえて放さない正樹。
どうしようもない程苦しみ、もがいていた。


正樹も美紀の中に珠希を感じていたが、それを口にする訳にはいかなかった。


それを口実に、自分が美紀を襲う。

正樹はそうなることが怖かった。


好きだと言えばいい。
解ってはいる。でも言える筈がない。
正樹には此処は生き地獄だった。


花火が上がる度、一緒に過ごした珠希を思う。

プロレスラーを辞めてからもトレーニングに勤しんできた。

珠希が作り上げてくれた肉体と体力を維持するために。


正樹は珠希を忘れることなど出来なかった。


だから……

部屋の鍵は掛けなくなった。

珠希に帰ってきてほしくて……
魂でも良いから添い寝してほしくて……


そんな男が珠希の代わりに美紀を愛してはいけないと思ったのだ。