そして運命の第三試合が始まった。

松宮高校は先攻だった。

甲子園では、先攻の方が有利だと言う。
出所は良く判らないが、噂としても間違はないらしい。


正樹の傍には何時も提灯があった。
それは珠希のお墓でお盆に来られないかも知れないと正樹が用意した物だった。
正樹は常に珠希と共にいた。

美紀に珠希を感じながらも、娘に恋心を感じながらも、素直に愛せない正樹だった。
だから尚更、珠希の魂に触れていたかったのかも知れない。


でも本当は自分への戒めだった。

幾らなんでも、娘を愛する訳にはいかないのだ。
それは神をも恐れぬ背徳の行為だったから。




 秀樹はマウンドに立ち、直樹を見つめた。

もう一度コーチの言った、基本はキャッチボールと遠投の意味を再確認するために。


一イニングは、先頭打者から第三打者まで塁に出られなかった。
三者凡退で、呆気なく終わってしまった。
でももう、それを引きずるような秀樹ではない。
あの決勝戦での、直樹の満塁ホームランによって生き返ったのだ。


だから何も心配しないで、女房役を信頼するたけで良かったのだ。


「ストライク。バッターアウト!!」
主審の声が高々と見逃し三振をアピールした。




 秀樹はバッターボックス立ち、マウンドを見つめた。


(――えっ、カーブ!?)

直樹のサインはコーチの指示で封印していたあの球質だった。


(――本当にいいのだろうか?)
迷う秀樹に、再度ゴーサインを送る直樹。

直樹はコーチから、全権を任されていた。
カーブもチェンジアップも、投げられることをコーチは知っていたのだった。


秀樹は見えない場所で努力していた。

そもそもコーチは、秀樹の能力を高くかっていたのだ。
だから女房役の直樹に一任したのだった。